米軍の地中貫通爆弾「バンカーバスター」の機能とその特許

はじめに
イランとイスラエルとの間の攻撃と報復が激しさを増しているというニュースに、心を痛めている人も多いと思います。本日(2024年6月21日未明)、ついに米軍の応戦が報じられました。トランプは戦争が嫌いなので、今回の行動の意図は別にあるという声も聞かれます。そのようなかでまた別に気になることがあります。それは、武器についてです。戦争自体はとても悲しいことですが、攻撃のたびに高性能な武器が使用されます。筆者は軍事マニアではなく日ごろから武器をチェックしているわけではないので、報道を見るたびに高度な軍事技術に驚かされています。
本記事では、直近で米軍によって使用された武器、それに関する特許、各国における軍事特許の取扱いなどについて紹介したいと思います。
フォルドゥ核施設への攻撃に使用されたバンカーバスター
米国がイランのフォルドゥ核施設を攻撃する際、B2爆撃機6機を使って「バンカーバスター」爆弾12発を投下したことが分かった。米当局者がCNNに明らかにした。
この当局者によれば、ナタンズとイスファハンの2カ所に対しては米海軍の潜水艦が対地攻撃型のトマホーク巡航ミサイル「TLAM」30発を発射したほか、B2爆撃機1機がナタンズにバンカーバスター2発を投下した。
攻撃の詳細については、米紙ニューヨーク・タイムズが先に報じていた。
バンカーバスターは「GBU57A/B大型貫通爆弾(MOP)」の通称で、重さ3万ポンド(約13.6トン)の爆弾に6000ポンドの爆薬を搭載する。
米空軍の資料によると、MOPは「厳重に防護された施設にある敵の大量破壊兵器に到達、破壊する」目的で設計された。
引用元:CNN
米軍が使用した「バンカーバスター」というミサイルが注目されています。技術と特許の面から調べてみました。
バンカーバスターの特徴
バンカーバスター(bunker buster)とは、硬化目標(分厚いコンクリートや岩盤で覆われた地下司令部、弾薬庫、核施設など)を破壊するために設計された「貫徹型」爆弾・ミサイルの総称です。通常の爆弾が届かない深さや強度を攻略するために、①きわめて頑丈な金属ケース、②高運動エネルギー(質量×速度)、③遅延・空洞検知信管、④場合によっては成形炸薬や多段爆破――といった技術を組み合わせて目標深部で炸裂させます。(en.wikipedia.org)
バンカーバスターの基本メカニズム
段階 | 主な技術 | 目的 |
① 侵徹 | ・超高強度鋼/合金ケース ・誘導で目標に垂直突入 ・重力加速 or ブースター再加速 | コンクリート・岩盤を割って地下深くへ到達 |
② 遅延信管 | ・時間遅延 ・衝撃/空洞感知 ・マルチポイント起爆 | 所定深さで爆発し、空洞内の構造物を破壊 |
③ 爆破効果 | ・大質量高爆薬(H6、PBXN 等) ・場合によって成形炸薬ライナー | 地中で衝撃波を閉じ込め、構造体を崩壊させる |
主な代表兵器と性能
名称 | 重量 | 侵徹深度 | ガイド方式 | 備考 |
GBU-28(米) | 約 5 t | コンクリート > 5 m | レーザー誘導 | 湾岸戦争終盤に急造開発。en.wikipedia.org |
GBU-57A/B “MOP”(米) | 約 13.6 t | 強化コンクリート > 18 m/土壌 > 60 m | GPS/INS | 30 t級、世界最大の非核貫通爆弾。B-2で投下。en.wikipedia.org huffingtonpost.es |
GBU-72 “Advanced 5K”(米) | 約 2.3 t | BLU-109 の2倍強と試算 | JDAM (GPS/INS) | 2021年初投下試験。F-15Eで運用可。en.wikipedia.orgstripes.com |
歴史的発展とトレンド
- 第二次大戦: 英国の Tallboy / Grand Slam「地震爆弾」が先駆け。超音速落下で地盤を揺らして崩壊させた。
- 冷戦期: 核弾頭付き地貫弾(B61-11 など)が登場。
- 1990 年代: 湾岸戦争で GBU-28 が実戦投入、「硬化目標貫徹兵器」の概念が一般化。
- 2000 年代以降: JDAM化で精密誘導が標準に。さらに巨重量化(GBU-57)と極深シェルター対策が進む。
- 近年: 中国・ロシア・イスラエルも 1 〜 2 t級のレーザー/GPS誘導ペネトレーターを配備。米国は小型化・多機能化(GBU-72)へシフト。極超音速滑空弾頭による地下貫徹研究も進行中。
バンカーバスターに関する特許の簡易分析
以下に説明する検索式から米国に出願されているバンカーバスターのようなミサイルに関する特許を601件抽出し、分析しました。抽出、分析ともに簡易的に行っています。使用ツール:PatentField
- 技術分類コード(IPC)
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- F42B12/02 弾頭または所期効果に特徴のあるもの
- F42B12/04 徹甲弾
- F42B12/06 固いまたは重い弾心のあるもの;運動エネルギペネトレータ
- F42B12/08 徹甲被帽付き;装甲被付き
- F42B12/20 榴弾形
- キーワード
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- penetrator
- 検索式

出願人(縦軸)×出願年(横軸)(件数積上げ)

技術分野(縦軸)×特徴キーワード(横軸)(バブル)

バンカーバスターに関する特許の紹介
上記抽出された特許から一つ紹介します
- 書誌事項
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- 特許番号:US6601517(2001-10-31出願)
- 発明の名称:Super-cavitating penetrator warhead
- 所有権者:NAVY UNITED STATES OF AMERICA AS REPRESENTED BY THE SECRETARY OF THE THE – CHIEF OF NAVAL RESEARCH, OFFICE OF COUNSEL
- ステータス:Expired – Fee Related
- 解決すべき課題
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- 深く埋設・硬化したターゲット(コンクリート覆いの地下バンカーや砂中)に対し、ワーヘッドが貫通する際に、内部の炸薬が早期に起爆してしまい、目標内部に届かない問題がある。
- 厚い外殻壁で炸薬を守ると、起爆時に外殻を粉砕するエネルギーが浪費され、「破片の初速低下」「爆風の減弱」という副作用が発生する。
- 本発明の構成/特徴
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超空洞形成ノーズ(super-cavitating nose)
・先端を「鈍円形+内曲部(ショルダー)」とすることで、貫通中に周囲の砂・破片を外壁から瞬時にそらし、外殻への摩擦・衝撃を激減。
・これによりノーズ周辺の壁を薄肉化でき、貫通力アップかつ炸薬の保護を両立。
セルラー構造(cellular structure)
・ワーヘッド胴体を「外殻壁+複数の円盤ディスク(セルを形成)+中央支柱」に分割。
・複数短区画に炸薬を分散充填 ⇒ それぞれの炸薬高さを抑えることで、貫通時の加速度応力を大幅に低減 ⇒ 早期起爆リスク低減。
中央支柱(load bearing support)
・ディスクを貫通する太めのポストを主荷重経路とし、径をディスク部でフレア状に拡大してせん断破壊を防止。
・炸薬貫通時に発生する圧力は中央支柱を強化する方向に働くため、構造的に最も頑強。
薄肉外殻(fragmentation wall)
・外殻は約0.5″厚の鋼板(40–45 ksi)で構成し、起爆時には高速破片を生産。
・外殻破砕にエネルギーを取られず、炸薬エネルギーを破片速度と爆風に最大限活用。
バラスト(ballast)
・ノーズ内部にウランなど高密度バラストを内蔵 ⇒ 断面積密度を向上させ、同質量でも貫通力を強化。
安全配置の起爆機構
・テール部セルに信管を配置し、周囲を緩衝材で保護。
・中央支柱に通った主信管チャネルから各セルへ放射状に信管路を伸ばし、均等確実に炸薬を起爆。 - 実施形態と用途
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高貫通性+早期起爆防止:ノーズの超空洞化と炸薬分割により、深部まで到達してから安全に起爆可能。
薄肉外殻による高威力:炸薬エネルギーを外殻粉砕に浪費せず、破片速度と爆風を最大化。
軽量かつ高剛性:セルラー構造と中央支柱で強度を確保しつつ、全体の重量増を抑制。

各国における軍事技術特許の取り扱い
軍事特許の取り扱いは、国によって異なります。日本では、2024年に特許出願非公開制度が施行されました。軍事転用が可能な民生技術(例:量子、AI、極超音速、宇宙、バイオ等)を対象に、国家の安全を脅かす技術に公開制限および外国出願禁止を実施するというものです。
ほかの国はどうでしょうか。
国 | 秘密保持制度(概要/根拠法) | 対象技術の範囲 | 手続上の特徴 |
米国 | Secrecy Order (35 U.S.C. §181–188, DoD/DOE/NSA 等の「Defense Agencies」勧告) | 国防・核・通信傍受技術など国家安全保障上敏感な発明 | USPTO が出願審査途中または出願即日で命令。外国出願禁止・公報非公開・審査停止。請願により年次再審査が必要 |
日本 | 特許非公開制度(令和5年改正特許法・経済安保法に基づき 2024/5 施行) | ①武器・弾薬・航空機制御 ②量子暗号など先端安保技術 | 経産省・防衛省が「指定」→特許庁へ通知。国内出願は継続可だが公開されない。外国出願は禁止。 |
英国 | Directions under s.22(1) UK Patents Act 1977 | 軍需・暗号・核融合・AI 兵器制御等 | IPO が「Secret patent directions」発行、外国出願禁止・公開延期。年1 回内閣府(UKSA)と再審査。 |
ドイツ | §50 PatG (“Anordnung der Geheimhaltung”) | 国防・兵器・暗号・運輸セキュリティ | DPMA が国防省推薦で秘密指定。出願は審査継続するが公報非公開。外国出願は BMJ 許可が必要。 |
フランス | Code de la Propriété Intellectuelle Art. L612-10, L612-12 に基づく “Secret-défense” ラベル | 航空宇宙・核・暗号・サイバー戦など | INPI が DGA(国防調達局)の意見で秘密指定。外国出願禁止・出願人は国家とライセンス契約可。 |
中国 | 保密专利 (confidential patents)—国務院《涉密专利管理办法》(2022) | 武器・宇宙・量子・AI 戦略技術 | CNIPA と国務院弁公室(保密局)が共同審査。対外出願禁止。 |
インド | Section 35–42 Patents Act 1970 (“Secrecy directions”) | 防衛・核・原子力 | 特許庁長官が国防省通報で指示。外国出願禁止・公開停止 |
ロシア | ГОСТ 15.205-2000 / Федеральный закон «О государственной тайне» | 兵器・宇宙・暗号・輸送安全 | Rospatent が FSB/MinDefense 意見で非公開特許 (гриф «Секретно») |
NATO/EU | 共通の “Security Classification Guide (SCG)” があるが、特許手続は各加盟国法で管理。EU 協定特許(EPC)出願でも、出願国官庁が秘密指定すれば EPO は公開を停止。 |
まとめ
バンカーバスターの技術や特許、さらに各国における軍事技術の特許の扱いについて紹介しました。バンカーバスターの費用も調べてみたのですが、個人的に衝撃が大きすぎてここに書くのは控えます。
戦争はとても理不尽で悲しいですが、戦争はなくならないとわたしは思っています。理由は書きませんが、戦争は、世界線が根本からひっくり返らないとなくならないと思っています。自分にできることは被害地域に対する少額の募金くらいですが、小さな平和の積み重ねに少しでも寄与できたらいいと思っています。