国際的な特許出願ランキングとトップに立った中国の翻訳事情

目次

2024年の特許の国際出願件数

前回のブログで、生成AIによって特許翻訳の仕事は大部分がなくなると書きました。それでは、特許翻訳の案件数自体は増えているのでしょうか?減っているのでしょうか?世界的な特許翻訳市場がどうなっているのか気になりますね。そこで、特許翻訳が必要となる国際的な特許出願の件数を調べてみました。直接的なデータを取得することはできませんでしたが、世界知的所有権機関(WIPO)の年次報告書(2024年版)の「世界知的所有権指標」から以下のことがわかりました。

WIPOの「世界知的所有権指標」から

2023年、世界全体の特許出願件数が過去最多を更新 2023年、世界全体の特許出願件数は初めて350万件を超えて過去最多を更新し、厳しいマクロ経済環境にもかかわらず4年連続の増加となりました。

世界の特許出願活動を牽引したのは、特許出願件数の多かった中国(164万件)、米国(518,364件)、日本(414,413件)、韓国(287,954件)、ドイツ(133,053件)でした。インド(64,480件)は特許出願件数が15.7%増加して6位に順位が上がりましたが、これは主に、インドの急速な経済成長に支えられ、居住者による出願が大幅に増加したことによるものです。 またインドでは、2018年から2023年の間に特許と意匠の両方で出願が倍増、商標の出願が60%増加しており、今回初めて、WIPIに含まれる3つの主要な知的財産(IP)権のすべてにおいて上位10位にランクインしました。

国際的な特許出願件数は過去最多を記録するほど増加したようです。特許翻訳案件も増加しているはずですが、生成AI翻訳の登場により、人間の特許翻訳者が受注件数の増加(相応の費用が伴う)を実感しているかどうかはわかりません。

国別では中国がトップに立ちました。ということは特許翻訳件数も増えているはずですね。それでは、中国における特許翻訳事情はどうなっているのでしょうか?特許翻訳にしぼった情報は見つからなかったのですが、翻訳全般の最新動向が紹介された記事はありましたので、これを紹介します。

中国における翻訳業界動向

「我国的翻译行业现状是什么样的?北京翻译公司总结了3点(知行翻译公司 2024-01-29)」の機械翻訳

中国は対外開放を基本国策として堅持しており、特に「一帯一路」戦略構想の実施以降、中国の翻訳業界はかつてない発展を遂げ、翻訳会社が雨後の筍のように次々と現れるようになりました。不完全な統計によれば、登録されている翻訳会社の数はすでに1万社を超えており、文化コンサルティングや印刷社の名義で登録し、実際には翻訳業務を請け負っている会社を含めると、その数は数え切れないほどに上ります。翻訳業界の急速な発展は、同時に多くの問題も浮き彫りにしています。この機会に、北京の翻訳会社が中国翻訳業界の現状について簡単に共有したいと思います。

1. 翻訳業界の品質問題

まず、多くの人々が翻訳市場には高い利益が見込めると考え、翻訳能力や経験を持たない人々が翻訳業界に参入しています。このため、翻訳の品質が保証されず、翻訳された文書の品質が低劣であるケースが目立ちます。多くのベテラン翻訳専門家が指摘するように、中国の翻訳業界には以下のような問題が普遍的に存在しています

  • 浮ついた風潮や短期的な利益追求
  • 業務能力の限界
  • 金銭第一主義
  • 業界の秩序の混乱や非規範的な経営

これらは翻訳サービス市場全体のイメージと信用を大きく損ねています。さらに、翻訳市場には有名な翻訳ブランドが存在せず、市場をリードし、規範を提供する役割を果たせない状況です。

2. 翻訳会社間の過度な競争

さらに、翻訳会社間の競争は非常に激しいものの、その手段は主に価格を引き下げるといった低レベルな競争にとどまっています。この結果、市場は規模を拡大できない悪循環に陥っています。資格を持たない低コストの人材に依存することで、もともと低かった翻訳料金がさらに引き下げられています。このような価格競争の市場環境は、規範的で品質が保証され、経営コストが高い正規の翻訳会社に大きなプレッシャーを与えています。また、盲目的な価格競争は多くの優秀な翻訳者を業界から追い出し、「良貨が悪貨に駆逐される」ような状況に陥っています。

3. 翻訳に対する認識の問題

最後に見逃せない要因として、人々の意識の変化がまだ追いついていないことがあります。長年にわたり、翻訳は「コストが高く、付加価値が低い」業界と見なされてきました。市場経済が急速に発展している現在でも、多くの政府機関や企業は外国語資料や情報を得る際に、専門の翻訳会社にサービスを依頼するのではなく、「内部消化」を選ぶ傾向があります。しかし、実際には、国際市場が高度に分業・連携し、商機が一瞬で過ぎ去る現代では、内部消化は効率的、専門的、多元的な市場競争のニーズに対応できません。一方的にコスト削減や迅速性を追求することは、結果として企業の経済的利益に損害を与える可能性があります。

以上が翻訳業界の現状に関する簡単な紹介です。翻訳市場の繁栄は、中国の翻訳産業にもかつてないチャンスをもたらしましたが、同時に巨大な挑戦も伴っています。このような巨大な市場を前にして、北京の翻訳会社は「品質の標準化」と「高水準のサービス維持」が翻訳市場での生き残りの鍵であると考えています。

中国の翻訳会社との取引(体験談)

特許の国際出願が世界最多の中国では理論上は特許翻訳の件数も増えているはずですが、こうした環境において品質向上が課題のようです。中国の特許出願については「質よりも量」と言われていますが、特許翻訳についても同じことが言えるのかもしれません。筆者もフリーランス時代から中国の翻訳会社と取引していますが、共通して感じるのは、インハウス翻訳者がいないか、とても少ないということです。少なくとも、翻訳者に案件を割り当てるコーディネータと呼ばれる人は、英語と中国語以外の言語を話しません。

特許翻訳の場合、サプライチェーンが複雑で、多くの登場人物がおり多くの人が翻訳文に目をとおします。このような状況でも該当の言語が分からない人がコーディネートするわけですから、業務が無駄に煩雑になります。コーディネータが該当の言語を理解していれば発生するはずのないやり取りが多く発生します。さらに、報酬が大きいわけではないので、日本人のベテラン翻訳者などは、中国の翻訳会社に定着しづらいのではないかと察します。上記の記事のように、翻訳の水準や品質の問題があるというのは理解できる状況かもしれません。

IPアドバイザリーの代表、宮崎幸奈は知的財産翻訳検定 英文和訳1級(電気・電子工学)と中国語のふたつの科目に合格しています。これは日本初の記録であり、現在でも合格者は日本で2名しかいません。弊社で受注した翻訳は、この試験に突破した翻訳者のみで対応させていただきます。上記のとおり、MTPEの受注実績も非常に豊富です。高精度な翻訳サービスを提供いたしますので、安心しておまかせいただけます。お気軽にお問い合わせください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県野々市市にて特許関連の各種業務を行なっています。販路開拓や知財コンサル、特許翻訳のことなどどうぞお気軽にお問い合せください。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次