優れたエコ材料「ヤシガラ培土」の市場、プレーヤー、特許、そして農業への普及

目次

ヤシガラ培土の家庭菜園

昨今の報道にあるように、米国とイランとの関係が悪化するなかで、ホルムズ海峡をめぐるエネルギー不安が取りざたされています。筆者の家庭では、エネルギー不足、ひいては将来的なハイパーインフレやスタグフレーションに備えるために、少しずつ自給自足に取り組むことにしました。その最初のステップとして選んだのが、ベランダ家庭菜園です。

上記の画像は、ニラ、ほうれん草、白菜が芽を出したばかりの様子です。

家庭菜園は初めてということもあり、専用のサイトや動画を見て使い方やと育て方の手順を確認しました。いろいろ調べていくうちに、「ヤシガラ培土」という土があることを知りました。詳しく調べると、とても有能な代替培地だということがわかり、このヤシガラ培土を使って野菜を育ててみることにしました。使っているうちに、なるほど、こんな便利で優秀な土があったのか、と感動することばかりでした。

農業分野における問題

話は変わりますが、我々の日々の生活において、エネルギー不安よりも前から問題視されているのが、農業人口減少と食料自給率低下です。最近でも令和の百姓一揆デモというものが行われたようです。筆者にも農家を営んでいる友人がおり、仕事の大変さや生活の苦しさなどについてよく話を聞いています。家庭菜園は、こうした農業分野における問題解決にもつながります。たとえば、家庭菜園を通じて農業への関心を持つ人が増えることで、新規就農者の裾野が広がる可能性があります。また、栽培の経験を通じて種の保存や季節ごとの農業知識が一般家庭にも広がり、農業文化の継承に役立ちます。個人レベルで食料自給率を上げられることも大きなメリットです。

先述のとおり、ヤシガラ培土は非常に高機能です。日本でも広く普及してほしいし、近年の農業人口減少や食料自給率低下の問題に対しても、解決の糸口になってほしいと考え、どのような事例があるのか簡単に調べてみました。ヤシガラ培土の優れた性能とともにご紹介いたします。

ヤシガラ培土とは何か?なぜ今注目されるか?

ヤシガラ培土(ヤシ殻ピート、ヤシ殻培地)は、ヤシの実の殻(中果皮)を粉砕・加工した100%天然有機質の培地です。保水性、排水性、通気性のバランスが優れ、使用後は畑に還元されます。pH5.5〜6.5の弱酸性で多くの作物に調整不要で使えるだけでなく、乾燥時は培養土の約1/7の重量で、女性や高齢者でも扱いやすい土です。

施設園芸の急拡大とともに、従来の二強だったロックウール(廃棄は産業廃棄物)とピートモス(採掘による環境破壊・強酸性)の代替として世界市場でシェアを急伸させています。欧米ではすでに標準培地に近い位置を占め、日本でも本格普及が始まりました。

ロックウールとピートモスとの違いはこちらです。

項目ヤシガラ培土ロックウールピートモス
素材天然有機質人工鉱物天然有機質(泥炭)
pH調整ほぼ不要不要要調整(強酸性)
廃棄土に還元可産業廃棄物土に還元可
コスト安〜中中〜高
耐久性3〜5年以上3〜5年1〜2年

ヤシガラ培土の世界市場規模と成長率

世界市場規模(2024年)2034年予測アジア太平洋シェア主要生産国の工場数
約40億ドル約62億ドル約52%300以上
調査機関によって推計に幅ありCAGR 約4〜5%で安定成長インド・スリランカが生産の中心スリランカだけで大小合わせて

成長を牽引するのは有機農業・養液栽培・SDGs対応のトリプルドライバーです。スリランカとインド南部(タミルナドゥ州)が供給の大部分を占め、日本への輸入品もほぼスリランカ産です。

日本国内のプレイヤー

日本市場では、ヤシガラ原料そのものの国産企業というより、海外原料を調達して日本向けに規格化・販売する企業と、培地を使った栽培システムまで提供する企業が中心です。少なくとも主要各社の公開情報では、南インドやスリランカなど海外生産・海外原料を取り込み、日本国内で販売・導入支援する形が目立ちます。

※ネット上の公開情報から抽出しています

企業立ち位置原料調達・製造の見え方主な供給形態主用途・対象作物
ココカラ合同会社培地ブランド型南インドに自社R&D拠点・生産施設を持ち、自社工場製ココピートを展開バッグ、スラブ、ブリケット、育苗向け専用品などイチゴ向け製品が明示され、トマト・果樹での活用事例も公開
株式会社リニア輸入販売・総代理店型スリランカ産中心。GALUKUの日本総代理店として直輸入グローバッグ、ブリケット、袋物、園芸資材施設園芸、養液栽培、鉢物栽培
株式会社トップ輸入販売・土壌改良材型会社概要でココピート輸入販売を明示。スリランカ採取山・長期堆積原料の訴求ありココピート、ココピートオールド、苗木用培土など園芸・農業用、土壌改良、果樹・苗木向け
カネコ種苗株式会社栽培システム型ヤシ殻培地を用いた「ココベッド」「ココブロック」を展開。公開情報ではスリランカで圧縮成型ベッド、ブロック、イチゴ専用培土、養液栽培プラントトマト、ナス、切り花、イチゴ
株式会社トヨタネ栽培システム型ヤシガラ培地を使う隔離栽培システムとして展開ココバッグ各種、モニタリング用バッグトマト、ミニトマト、パプリカ、ナス、キュウリ、イチゴ、花き
ベルグアース株式会社育苗連携型自社で原料を前面に出すというより、ココカラと共同開発した専用培地を展開「アースinココ」など苗専用培地アースストレート苗向け育苗
株式会社ライズコーポレーション培地ブランド型日本国内自社工場で研究開発したCOCO FARMを展開ココピート製品トマト、イチゴを中心に施設栽培訴求

ヤシガラ培土に関する特許出願

前章で紹介したプレーヤー情報は、実際にヤシガラ培土を事業として売っているか、供給しているかの観点で、公開情報から抽出したものですが、ヤシガラ培土の特許を出願している会社はどのような会社でしょうか?

KW:*N10″(ヤシ 椰子 ココ) (培土 培養土 栄養土)”

上記キーワードで検索した結果、184件が抽出され、主要出願人は下図のようになっています。主要プレーヤーとは異なりますが、特許を出願していても事業を大きく展開していない場合や、発明をノウハウとして秘匿しながら事業を展開している場合や、出願人には販売する企業だけでなく、消費する企業も含まれる場合があることから、主要出願人と主要プレーヤーが異なっていると思われます。

キッコーマン食品が1位となっています。具体的には、同社からは下記の特許が出願されています。

  • 植物栽培セットの製造法及び製造装置
  • 野菜栽培セットの製造方法
  • ポット菜園セット
  • ポット菜園5件
  • ポット菜園用包装用容器

農家でヤシガラ培土を採用している事例

このような高機能なヤシガラ培土は、農家でも普及しているのでしょうか?簡単に調べ、植物別にまとめました。

作物事例のタイプ確認できた内容
トマト公的研究・普及農研機構は、ヤシガラ培地の循環式養液栽培で、培養液を6か月更新しなくても月1回更新区と同等以上の収量が得られると報告しています。愛知県では、平成27年ごろから固形ヤシがら培地の導入が進み、JA愛知東トマト部会の約6割が導入しているとされています。
ミニトマト公的実証愛知県は、夏秋作ミニトマトのヤシがら培地耕について給液量指針を作成しており、県の環境制御ガイドラインでもヤシガラ培地(商品名ココバッグ)を使った栽培概要を示しています。つまり、試験段階を超えて管理技術の整備対象になっています。
イチゴ公的普及・民間導入宮城県の普及資料では、イチゴ作付136haのうち111haが養液栽培で、培地は主に海外産ヤシガラとされています。宮城県の技術資料や栽培マニュアルでは、ヤシガラ培地の代替資材比較や、5年以上使ったヤシガラ培地で起こりやすいpH低下・細粒化などの管理注意点も示されています。民間事例では、千葉県成田市の周年イチゴ栽培でココカラブリケット導入例が公開されています。
キュウリ公的導入事例・技術資料農水省のスマート農業事例では、佐賀県のキュウリ経営体が平成30年から隔離培地養液栽培を導入しています。千葉県の資料では、ヤシ殻袋培地は3年程度使用可能で、使用後は施設内土壌に鋤き込めると説明されています。高知県の技術資料でも、ヤシガラスラブ(グローバッグ)を用いたハウスキュウリ栽培の手法が示されています。
パプリカ/ピーマン公的事業・自治体実証農水省の大規模施設園芸事例では、茨城県のリッチフィールド美浦が有機物のヤシ殻を使用した養液栽培プラントでパプリカを生産しているとされています。鹿児島県肝付町では、ヤシ殻を基調とした培地でピーマンの養液栽培を実証中です。アグリサーチャーでも、ヤシガラ培地を用いた夏秋ピーマンの省力多収技術の研究課題が確認できます。
ナス公的実証・普及展示旭川市農業センターは、長ナスの養液栽培実証調査でヤシガラ培地「ココカラ」を使用しています。JAあいち経済連の実証展示でも、ナスのヤシガラ培地におけるハイワイヤー栽培が紹介されています。
ガーベラ公的研究・現地栽培例静岡県農林技術研究所のレビューでは、ガーベラの隔離栽培にヤシがら培地が適し、EC1.5程度の養液が適当と整理されています。宮城県の現地紹介資料では、石巻市桃生地区で土・炭・ヤシ殻等を独自配合した培地を使うガーベラ栽培が紹介されています。
バラ公的研究山形県立園芸試験場は、バラ養液栽培のロックウール代替培地としてヤシ殻培地が有望で、収量は同等以上、花持ちも同等と報告しています。山梨県総合農業試験場も、ヤシガラで3年以上利用可能としています。
果樹(ブドウ・メロン・桃)民間の再利用事例ココカラの公開事例では、使用済みココピートを再利用して、2023年からメロン・桃・ブドウ栽培を開始した例が紹介されています。これは主に使用済みヤシガラ培土の再利用の事例です。

まとめ

ヤシガラ培土は、水持ちと通気性のバランスがよく、根圏管理しやすい培地として施設園芸で広がっています。日本では輸入原料を加工・販売する企業や栽培システム会社が中心です。今後は、培地そのものよりも、品質安定化、作物別レシピ、回収再利用まで含めた仕組みづくりが差別化の鍵になりそうです。

株式会社IPアドバイザリー
石川県野々市市にて特許関連の各種業務を行なっています。販路開拓や知財コンサル、特許翻訳のことなどどうぞお気軽にお問い合せください。
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