石川県の上場企業26社の株価、業績、特許分析

石川県内の上場企業の特許出願
目次

はじめに

最近筆者は、金融機関、証券会社、VCといった資産の価値を評価する人々と会話する機会が多く、さらに昨今では、知財経営、知財金融、無形資産価値評価への注目がますます高まっています。本記事では、石川県内の上場企業がどのような知財活動を行っているのか?より具体的には、どのような特許出願を行っているのか?について簡単に分析してみました。

石川県内上場企業一覧

まず、石川県内の上場企業一覧です。

企業名市場設立年月日株価終値(2025/10/9)特許出願件数
1ニッコー名証MN1908146167
2津田駒工業東証STD19093651627
3今村証券東証STD192111350
4福島印刷東証STD192836849
5三谷産業東証STD192847155
6澁谷工業東証PRM193134702488
7大同工業東証STD19331388309
8石川製作所東証STD19371663288
9小松マテーレ東証PRM194384881
10大和東証STD1943388183
11オリエンタルチエン工業東証STD1947239121
12北紡東証STD19481652
13高松機械工業東証STD1948460115
14共和工業所東証STD1950689059
15タケダ機械東証STD1966298541
16ハチバン東証STD196734002
17EIZO東証PRM19682194114
18小松ウオール工業東証PRM19682511183
19ウイルコHD東証STD19791011
20システムサポートHD東証PRM198032502
21ビーイングHD東証STD19869130
22ダイワ通信東証STD19969096
23クスリのアオキHD東証PRM199936940
24歯愛メディカル東証STD2000149013
25サンウェルズ東証PRM20066090
26CCIグループ東証PRM20216666
  • 企業名は市場銘柄です
  • 特許出願件数は、出願時の出願人名に基づきます
  • 特許出願件数は、日本のみを出願国としたものです

石川県上場企業の特許出願からわかること

石川県の上場企業は「装置・機械×部材×ニッチB2B」寄りの産業構造で、「件数より質」が効きやすい特許戦略が相性が良いと言えます。具体的には、製造業は存在感が大きく、澁谷工業(充填・検査・ロボティクス)、EIZO(映像機器)、大同工業(チェーン)、小松ウオール工業(間仕切)などの事業からわかるように、「装置×プロセス×安全・検査」に関する技術の特許を積み上げやすい土台となっています。また、県内の主力は大手の川中・川下を結ぶ設備や部材です。顧客のラインに「刺さる」特許クレーム(構成要件)を確保できれば、少数でも高い参入障壁を形成可能と思われます。

一方で、IT/サービスは存在感が小さく、たとえば、システムサポートなどはソフトウェア特許や著作権・営業秘密をどう組み合わせるかが成否かもしれません。現状のように、受託/SI比率が高いと、粗利、スケール、PERが伸びにくいので、自社での商品化に重点を置くことを検討すべきかもしれません。

石川県上場企業の特許出願を簡単に分析してみたところ、これまでに日本国内で5740件あることがわかりました。その内容について以下でご紹介します。

出願人ラキング(過去20年)

※2024年から2025年にかけて件数が減少しているのは、特許データベースにおける出願から公開までの時期にタイムラグが1年半あるためです。

日本の全国的な特許出願は減少傾向にあります。理由として、「量から質」へのシフト、R&Dの海外シフト/現地での権利化、費用対効果の見直し、オープンイノベーション/ノウハウ秘匿の増加などが挙げられます。石川県内においてもこうした背景があると考えると、上記グラフからも同様の状況がうかがえます。そのなかで、ここ数年で出願数が増加した企業は、大同工業と小松ウォールです。また、株価が最も高いのが、共和工業です。これら3社の業績と特許出願を取り上げ、以下に紹介します。

大同工業の業績と特許出願

大同工業と言えば、2026年1月1日に株式会社椿本チエインの完全子会社となるというニュースが最近話題になりました。2025年3月期の決算をみると、売上高 575億15百万円(+2.6%)、営業利益 13億82百万円(+508.3%)、経常利益 14億34百万円(+84.2%)と大幅増益でした。主に原材料費やエネルギー価格などのコスト上昇分を販売価格へ転嫁した効果が順調に進んだことにより、営業利益、経常利益、当期純利益が大幅に改善したとのことです。経営統合関連費用 4億04百万円が特別損失として計上されていますが、2026年の戦略的統合によるシナジー効果(グローバル市場における競争力の強化と事業効率の最大化)も見込まれており、持続的な成長も期待されています。

特許出願の増加について考えてみましょう。まず、出願内容を大まかに見てみます。以下の図は、大同工業の特許出願に関して、その製品展開がわかるようにしたグラフです。具多的には、過去10年の各出願年(縦軸)に対して、技術の用途=製品(横軸)をぶつけています。

コア技術(チェーン)に基づく出願を継続的に行っており、近年その件数が増加していることがわかります。特徴的なのは、2018年におけるモビリティ・輸送用途での出願増です(ただし、直近の増加トレンドの一つ前のトレンドです)。その理由は同社にヒアリングしてみないとわからないのですが、2018年の出願(11件)をざっと確認し、また当時の業界の状況を鑑みると、考えられることとして次のことがあります。①製品の高付加価値化に向けた集中的な開発:自動車やオートバイの軽量化・燃費向上ニーズ、産業機械の高性能化ニーズなどに対応するため、チェーンの耐久性、軽量化、低抵抗などの技術開発を強化し、その成果を一斉に出願した可能性があります。②新事業・新分野への進出準備:チェーン技術は様々な分野に応用できるため、新たな市場(例:ロボット、自動化設備、次世代モビリティなど)を見据えた基盤技術や応用技術に関する権利を確保しようとした可能性があります)。

小松ウォールの業績と特許出願件数

小松ウォールはどうでしょうか?2025年3月期の決算によると、売上高 446億16百万円(+2.4%)、営業利益 36億35百万円(+0.4%)、経常利益 37億56百万円(+0.4%)で、オフィス向け需要の好調に支えられて増収となりましたが、各種経費増により利益は前期並みとなったとのことです。

特許出願件数を見てみます。

コア技術に基づいて、オフィス向けパーティション向けの持続的な特許出願を行っているなか、2023年に医療、ヘルスケア、バイオ用途での出願が2件ありました。内容を確認すると、トイレ向けパーティションが出願されていました。

小松ウォールに関しても、特許出願増加や多用途での出願の理由は実際にヒアリングしてみないとわからないのですが、同社の中期経営計画において掲げている基本方針も参考にすると、次の背景が考えられます。①新規製品の創出:新たな市場や顧客ニーズに対応するため、従来の可動間仕切(パーティション)の枠を超えた製品開発に注力していることが考えられます。具体的には、デザイン性や機能性(例:遮音性、防火性、耐震性)、デジタル連携など、高付加価値な間仕切に関する技術開発が特許出願の増加に繋がっている可能性があります。②既存間仕切事業の成長:主力である可動間仕切の施工性向上、軽量化、部品構造の合理化といった、生産性やコスト競争力に関わる技術についても、積極的に権利化を進めていると見られます。

共和工業の業績と特許出願

石川県の上場企業のうち、株価が最も高い企業が共和工業所ですが、まずこの株価が高い理由を調べてみました。次のことが考えらえます。

1. 単元100株×発行株が少ない(流通も薄い)

1単元=100株のため最低購入代金が約66.5万円。発行株も多くなく、出来高も日々数千株程度で流動性が薄い=需給で値が付きやすい構造。

2. 業績/EPSが支えている(=「高い」のは株価水準であって評価倍率ではない)

直近実績EPSは、535.66円(2025/4期)などの水準で、株価6,700円台でもPERはおよそ一桁後半〜低2桁に収まりやすい。名目価格の高さ=割高でない。

3. 株式分割の影響は過去に一度(2018年に1→12)

流動性向上のため2018年に1株を12株に分割。以降は大きな分割・併合がなく、名目株価はその後の上昇分も反映して「高め」に見えやすいだけ。

4. 足元の業績は好調で需給も追い風

2026年4月期1Qは売上+10.6%/経常+71.6%と増収増益(建機向けが牽引)。好決算や配当の継続で需給が締まり、名目株価が維持・上昇しやすい局面。

次に、特許出願について見てみます。

実は共和工業所は、2009年以降、特許出願がありません。この理由として、以下のことが考えられます。

1. 知的財産の保護手段のシフト

特許出願の代わりに、以下の方法で技術的優位性を確保している可能性があります。

ノウハウ・機密情報の維持

特許として公開することで競合他社に模倣されるリスクがあるため、特定の製造方法や制御技術を営業秘密として徹底的に管理し、社外に出さない戦略に切り替えた可能性があります。特に、製造業における「勘どころ」や効率的な生産プロセスなどは、特許よりも秘密保持の方が効果的な場合があります。

設計変更による差別化

建設機械や産業機械向けの部品は、顧客であるメーカーの要求仕様に基づいて設計されます。特許技術に頼るのではなく、顧客との綿密な連携を通じて、独自の設計ノウハウや高品質な製造体制そのものを競争力としている可能性があります。

2. 事業の成熟化と安定化

成熟した製品群

共和工業所の主力製品である高強度ボルト・ナットなどの金属製品は、すでに技術が成熟しており、革新的な「発明」よりも、品質、コスト、納期(QCD)の優位性が競争の焦点となっています。技術革新の余地が少ない分野では、特許出願の優先度は低くなります。

3. コストとリターンのバランス

特許出願には、出願費用、審査費用、弁理士費用、そして維持費用など、多大なコストがかかります。

費用の抑制

特許を取得しても、その発明が市場で使われず、競合の侵害リスクも低い場合、多額の費用をかけて維持するメリットがありません。費用対効果を厳しく見直した結果、新規出願を抑制している可能性があります。

石川県上場企業の特許出願(技術別)

以下のグラフは、石川県内の上場企業の特許出願全件について、特許明細書に記載されている技術的なキーワードを出願年ごとに抽出したものです。

前述の出願人ランキングのグラフで紹介したように、大部分が津田駒工業と澁谷工業からの出願であるため、この2社の出願の分析をするようになってしまいますが、特徴的な動きに着目すると、次の点が見られました。「グリッパ」技術に関する出願の増加、「昇降」技術に関する出願の増加です。

2022年に出願件数が増加したグリッパ技術に関する特許の増加要因として次のことが考えられます。①高度なハンドリングニーズへの対応:澁谷工業は、ボトリングシステムや産業機械で培った技術を活かし、ロボットを活用した自動化システム(パレタイザ、デパレタイザなど)を幅広く提供しています。自動化・ロボティクス事業の強化が推察されます。②異形・軟質物の把持:従来の硬いボトルや缶だけでなく、袋物、軟らかい食品、精密な医療機器部品など、多様な形状やデリケートな製品を傷つけずに、かつ確実に把持するための技術が必要です。ワークの多様化に対応していると推察されます。③微細・デリケートな部品のハンドリング: 澁谷工業が注力する医療機器分野(たとえば、人工透析システム)では、滅菌環境下での微細でデリケートな部品を正確に扱うための特殊なグリッパ技術が必要です。

2023年に出願件数が増加した昇降技術に関する特許の増加要因として次のことが考えられます。①自動化・省人化への対応:澁谷工業でも、人手不足が深刻化する中、生産ライン全体の自動化や効率化が強く求められていると思われます。昇降装置を中核とした自動搬送システムやパレタイジングシステムに関する技術を強化することで、顧客のニーズに応えようとしているのではないでしょうか。②高精度化・高速化:生産ラインのサイクルタイム短縮や、半導体・精密機器など高精度な製造環境に対応するため、振動を抑えつつ高速で移動・停止させる昇降装置の技術開発に注力していると推察されます。③既存事業(ボトリングシステム)の高度化: 飲料ボトルや缶を高速で充填・搬送するラインにおいて、ボトルを正確な位置に上げ下げする技術は、生産効率と品質を左右します。より迅速で安定した昇降技術は、競合他社に対する製品優位性を確保するために重要です。

石川県上場企業の特許出願(用途別)

以下の図は、石川県上場企業の特許出願の出願年ごとの用途を表したものです。特許をどの用途、つまり製品に展開してるかを見ることができます。

ここでもやはり、津田駒工業と澁谷工業の製品の存在感が目立ちますが、全体的に見ると、情報通信・IT、ビジネス・サービスの用途での出願が小さいことがわかります。冒頭でも触れたように、石川県内上場企業のうちIT企業からの特許出願は極端に少なく、これは、多くのIT企業が大手ITメーカーの販売店として創業したことも、その理由として挙げられます。唯一独立系のIT企業である株式会社PFUからは4000件超の出願がありますが、現在リコーの子会社となっているため非上場です。ちなみに、筆者はこの株式会社PFUの知財業務を担っていたPFUテクノコンサルという会社の出身です。

株価が高いIT企業としてシステムサポートがありますが、システムサポートでなぜ特許出願がほとんどされないかの理由を考えてみると、次の点が挙げられます。システムインテグレーション(SI)やクラウドサービス・運用保守が中心のビジネスモデルであり、これらの事業は、顧客ごとに最適化する「カスタマイズ」や、プロジェクト管理、運用ノウハウといった「知識」や「スキル」が価値の源泉であり、これらは特許という「形」では保護しにくい傾向があります。また、特定の革新的な「発明」よりも、既存の汎用的な技術やソフトウェアを組み合わせて顧客の課題を解決する応用力が重視されます。さらに、特にIT分野では、特許出願をしても技術の進歩が速いため、特許が成立する頃には陳腐化しているリスクや、競合が特許を回避しやすいという実務的な課題もあります。そのため、市場に素早く投入し、ブランド力と顧客囲い込みで優位性を確保する戦略が重視される傾向にあります。

上場審査における特許の割合

これまで、石川県内の上場企業の株価、業績、特許出願などについて見てきましたが、特許出願が業績や株価にどのように影響しているかを知るには、もっと詳しい分析や企業に対するヒアリングが必要です。また機会があるときに、ブログにしたいと思いますが、上場審査における特許の役割だけ、以下に紹介します。

評価の側面特許の貢献
事業の優位性独自の技術やビジネスモデルが他社に模倣されないよう保護されていることを示し、事業の安定的な継続性を証明します。
成長性特許は、将来の高収益を生み出す可能性のある無形資産と見なされます。特許に基づく新製品・新サービスの計画は、成長戦略の裏付けとなります。
技術力の証明特許取得は、その企業が高度な研究開発能力を持つことの客観的な証拠となり、市場からの信頼性を高めます。

石川県の上場企業の特許出願を代理した特許事務所(おまけ)

番外編で、これらの特許出願を代理した特許事務所を確認してみました。以下の図は、石川県の上場企業の特許出願に対して代理人となった特許事務所の上位20事務所を出願年ごとに表しているグラフです。

上記20事務所中、石川県内の特許事務所は5事務所ほどです。さらに、これらの5事務所は取り扱い件数も少ないと思われ、全体の件数に対する代理数でみると、かなり小さい数字になってしまうことが推察されます。年間数百件以上出願する企業からの特許出願は、地方の開業弁理士のキャパを超えてしまうので、首都圏の大手特許事務所に依頼するのが一般的です。最近では、新幹線の開通に加えウエブ会議が容易になったことがあり、年に数件しか出願しない企業でも首都圏の特許事務所に依頼するケースが増えています。実は弁理士の9割近くが首都圏にいます。取扱い件数に差もあるため、地方の弁理士ではキャパだけでなく能力の限界もあり、最近の動きはそういったことを懸念した結果だと思われます。

免責事項:本記事は、石川県内の上場企業における特許出願の分析を目的としたものであり、投資を推奨したり、投資判断を助けたりするものではありません。また、本記事における特許分析は、簡易的に行ったものであり、掲載されている情報の正確性、完全性等について、一切の保証を行いません。さらに、掲載情報に基づいて生じたいかなる損害についても、責任を負いません。

IPアドバイザリーの代表、宮崎幸奈は、福岡県のソシデア知的財産事務所金沢オフィスの責任者をしています。ソシデア知的財産事務所の小木弁理士は、もともと首都圏の大手特許事務所で活躍していた経験を持ち、そのような高いレベルの品質を地方価格で提供しています。ソシデアは全国で15名のスタッフを擁し、地方の中小企業の特許出願を他分野にわたり多数代理しています。これまでの出願代理件数は、1000件を超えます。ソシデアは、特許出願だけでなく、商標、意匠の出願のほか、知財経営、知財戦略など、事業に密接に関係した知財活動の支援も行っています。ぜひお気軽にご相談ください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県野々市市にて特許関連の各種業務を行なっています。販路開拓や知財コンサル、特許翻訳のことなどどうぞお気軽にお問い合せください。
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