石川県の事例で考える――ニッチトップが倒産しやすい理由と「黒字倒産」の怖さ

ニッチトップ企業の抱えるリスク
「ニッチトップ」と聞くと、競争相手が少なく、利益率も高く、安定している会社という印象を持ちやすいです。実際、石川県には全国シェアや海外シェアで上位に立つ企業が多く、県も「石川のニッチトップ企業」として紹介しています。また、石川県の主な工業は機械・繊維・食料品製造で、県内工業の約8割を占めています。つまり石川県は、まさに「強いものづくり企業の県」です。
しかし、ここが重要です。ニッチトップであることと、倒産しにくいことは同じではありません。むしろ、石川県のように特定分野に強い企業が多い地域では、顧客や用途が絞られているからこそ、一つの変化が経営全体に大きく響くことがあります。石川県の2025年上半期の倒産リスク分析でも、高リスク企業は983社にのぼり、この半年で製造業は47社、建設業は30社増加しました。業種別では「繊維工業、繊維製品製造業」が81社と高リスク業種の上位に入っています。


石川県は「ニッチトップの宝庫」だが、同時に集中リスクも抱えやすい
石川県のニッチトップ企業の顔ぶれを見ると、その強さがよくわかります。たとえば、白山市の明石合銅は建機向け油圧ポンプ用バイメタル製シリンダブロックで世界シェア30%、金沢市の澁谷工業はびん詰機械で全国シェア60%、金沢市の石野製作所は回転寿司コンベア機で全国シェア70%、金沢市の津田駒工業は超高速織機で全国シェア65%、加賀市の村田機械加賀工場は自動ワインダーで全国シェア99%とされています。石川県は、まさに「狭いが強い」市場で勝っている企業が集積する地域です。
ただし、この強みは裏を返すと、市場依存の強さでもあります。建設機械向け部品なら建機需要に、回転寿司設備なら外食投資に、繊維機械なら繊維産業の設備投資に、業績が引っ張られやすい。つまり、自社の技術力が高くても、最終需要が冷えたり、大口顧客が設備投資を止めたりすると、受注が一気に細る構造があります。ニッチトップは競争優位を持つ一方で、顧客分散が難しいため、「一点突破」が「一点依存」になりやすいのです。これは石川県のように部品・装置・専用機メーカーが多い地域ほど起こりやすい問題です。
倒産しやすい理由1 顧客や業界が限られやすい
石川県のニッチトップ企業には、建設機械、繊維機械、食品機械、外食関連機器、二輪・四輪部品など、明確な用途に特化した会社が多く見られます。たとえば、回転寿司コンベア機や寿司皿、豆腐製造機械、医薬・飲料用ステンレス継手などは、非常に強い分野特化の好例です。こうした企業は、景気全体が悪くなくても、その業界だけの設備投資減速や取引先の再編で業績が揺れやすいのが特徴です。
石川県の倒産リスク分析でも、製造業の高リスク企業が増えている背景として、原材料・エネルギー価格の上昇、物流コスト上昇、賃上げ圧力に加え、価格転嫁できない企業が収益悪化に陥っていることが挙げられています。ニッチトップであっても、顧客数が少ないと価格交渉で不利になりやすく、売上が維持できていても利益と現金が削られていきます。
倒産しやすい理由2 価格転嫁が難しい
石川県も公式に、原材料価格、エネルギー価格、労務費の上昇が続く中で、適切な価格転嫁や取引適正化を進める必要があると案内しています。これは裏を返せば、まだ多くの企業で十分に転嫁できていないことを示しています。特に下請けや専用部品のメーカーは、代替が効きにくいように見えても、実務では発注側との関係上、すぐに値上げできないケースが少なくありません。
石川県のニッチトップ企業には、たとえば建機向け部品、ベアリング用ローラー、冷間鍛造用パンチ、医療機器向け超小形チェーンなど、高精度部品を供給する企業が多くあります。こうした企業は高度な技術で勝っていても、価格改定が遅れれば、先に資金繰りが苦しくなることがあります。シェアが高いことと値上げしやすいことは必ずしも一致しません。むしろ部品メーカーほど、値上げのタイミングで苦しみやすいのです。
倒産しやすい理由3 人に依存する力が大きい
石川県には36品目の伝統的工芸品があり、輪島塗、山中漆器、加賀友禅、九谷焼など、技能や感覚の継承が価値の源泉になっている産業が集積しています。こうした分野では、技術者や職人、熟練加工者、品質を見抜ける管理者が抜けると、会社の競争力そのものが落ちます。工業分野でも、精密加工、専用装置、現場調整、顧客対応に熟練が必要な会社ほど、属人的な強さを抱えています。
石川県事業承継・引継ぎ支援センターも、県内の中小企業で経営者の高齢化が進み、承継問題の先送りによって廃業や雇用喪失につながるおそれがあると説明しています。ニッチトップ企業ほど、単に社長が交代すれば済む話ではなく、「技術」「顧客との信頼」「工程の勘どころ」まで引き継がなければならないため、承継はより難しくなります。黒字でも、継ぐ人がいなければ、会社は続けられません。
倒産しやすい理由4 災害が「点」ではなく「産地」を直撃する
石川県でこの問題を考えるとき、令和6年能登半島地震を外すことはできません。2024年1月16日時点の石川県資料では、輪島塗について輪島朝市通りの火災で輪島漆器商工業協同組合103社加盟のうち12組合員の事業所が焼失し、ほぼ全ての組合員の工房や事務所に大きな被害が出たとされています。食品製造業者でも製造ライン損壊や断水で再開のめどが立たない事業者が多いとされました。
さらに経済産業省は、2024年3月時点で、被災地域域外のサプライチェーンに影響し得る業種の多くは再開のめどが立っていた一方、繊維や工芸品では約2割の企業で生産再開のめどが立っていないとしています。2026年2月時点でも、石川県は地震・豪雨の影響を受けた伝統工芸事業者向けの再建支援補助金を案内しており、被害が一時的ではなく長引いていることがわかります。ニッチトップや伝統産業は、設備一つ、工房一つ、職人の拠点一つが失われるだけで、会社だけでなく産地全体の供給力が落ちるのです。

「黒字倒産率」はどう見るべきか
ここでよく出てくるのが「黒字倒産」という言葉です。結論からいうと、石川県のニッチトップ企業に限定した黒字倒産率の公表値は、今回確認した公開資料では見当たりませんでした。一方で、全国ベースでは参考になる数字があります。帝国データバンクによると、2025年に休廃業・解散した企業のうち、直前期の損益が黒字だった割合は49.1%でした。また、資産超過かつ黒字のまま休廃業・解散した企業も15.2%ありました。
ここで注意したいのは、この数字は主に休廃業・解散を含むもので、いわゆる法的整理としての倒産企業だけを示すものではない、という点です。つまり、「黒字なのに市場から退出する企業」はかなりある一方で、それは必ずしも突然の破産だけを意味しません。石川県のニッチトップ企業でも、利益が出ていても、後継者がいない、災害で生産拠点を失った、主要顧客の発注減で資金繰りが細った、といった理由で事業継続が難しくなることは十分にあり得ます。

石川県の事例から見える本当の教訓
石川県のニッチトップ企業は、技術力が高く、全国・世界で戦える会社が多いです。だからこそ、シェアが高いから安心と考えるのは危険です。石川県の事例を見ると、ニッチトップの弱点は、価格競争そのものよりも、顧客集中、価格転嫁の遅れ、人材依存、承継難、災害による拠点喪失にあります。特に部品、専用機、伝統工芸のような分野では、売上高より先にキャッシュフローや供給体制が傷むことがあります。
石川県でニッチトップ企業の将来性を見るなら、単に利益率やシェアを見るだけでは足りません。見るべきは、主要顧客が何社に偏っているか、値上げが通る立場か、技能継承の仕組みがあるか、災害時の代替拠点があるか、そして後継者がいるかです。石川県はニッチトップの県であると同時に、その強さをどう守るかが問われる県でもあります。
まとめ
石川県には高い技術力で特定分野に強いニッチトップ企業が多くあります。しかし、顧客集中、価格転嫁の難しさ、熟練人材への依存、災害リスク、資金繰りの悪化が重なると、黒字でも経営は不安定になります。強みがそのまま弱点にもなり得るため、シェアだけでなく、承継、分散、キャッシュ確保まで含めた備えが重要です。

