石川県勃興記をもとに紐解く石川県の産業の歴史

石川県の産業の歴史
目次

『本県モノづくり産業発展の歴史(勃興と変遷)』

『本県モノづくり産業発展の歴史(勃興と変遷)』という資料をご存知でしょうか?2012年3月に石川県商工労働部産業政策課が作成した資料です。石川県のモノづくり産業の歴史的発展とその系譜が詳しく書かれています。本書に書かれているような詳しい情報は、筆者のような年代では知らない人も多いことでしょう。

本書を読んでまず印象に残るのが以下のページです。「モノづくり立県いしかわの豊饒」という言葉がなんともすばらしいコピーだと思いませんか?筆者はとても感銘を受け、それ以来、たびたび本書に目を通しています。

「能登の中居鋳物師」や「加賀藩の御細工所」という言葉、聞いたことがありましたか?筆者は本書を読むまで、これらのことについて知りませんでした。これらの要素が石川県の産業の発展にどのように寄与したのか、後段で詳しく説明します。

『本県モノづくり産業発展の歴史(勃興と変遷)』の内容

本書は、以下のような内容で構成されています。

古代〜藩政時代の鋳物と工芸の始まり
  • 能登中居鋳物(塩釜・武具・農具など)
  • 加賀藩の御細工所による工芸技術の集積(蒔絵、象嵌、和紙、竹細工)
明治時代:殖産興業と自律的工業発展
  • 長谷川準也による製糸・撚糸会社の創設(金沢製糸場、金沢撚糸会社)
  • 津田米次郎の力織機開発 → 津田駒工業の源流
大正時代:機械産業の拡大と多様化
  • 津田駒工業、北陸機械工業、石川製作所など織機関連メーカーの設立
  • 小松製作所(コマツ)の創業とブルドーザーの誕生
  • 大同工業の自転車用チェーンと木製リム
  • 高井製作所(豆腐機械)、金沢車輌(台車)など食品・車両機器分野の発展
昭和前期:軍需産業化と技術の蓄積
  • 津田駒工業・北陸機械工業・石川製作所の工作機械化
  • 小松製作所の軍用牽引車・ブルドーザー試作
戦後昭和:復興・高度成長・多角化
  • 津田駒工業によるウォータージェット/エアジェット織機の開発
  • 高松機械、中村留精密工業などのCNC旋盤/工作機械メーカー
  • 澁谷工業(びん詰機)、アサヒ装設(フライヤー)、石野製作所(寿司コンベア)など食品機械産業
  • オリエンタルチエン、ホクショーなど搬送機器分野
  • 小松製作所のマルA対策と「世界のコマツ」へ成長
IT産業の勃興と展開
  • PFU(旧ウノケ電子)のUSACシリーズ
  • アイ・オー・データ機器:織機工場向け管理システムの開発
  • ナナオ(EIZO):ディスプレイで世界展開
  • 村田製作所、NEC、東芝、ソニーなど大手の進出もあり、IT集積度は全国トップクラス

全文は「いしかわモノづくり産業遺産について」からご覧いただけます。

石川県の産業の特徴

石川県の産業の特徴について、本書からかいつまんで、他の資料からの情報も織り交ぜながら紹介したいと思います。

石川県の産業は、大きく分けて「ニッチトップ技術」と「伝統工芸技術」との融合と発展によって支えられています。ニッチトップ技術は、世界的にも高いシェアを誇る精密加工や先端材料など、特定分野で圧倒的な強みを持つ技術群であり、伝統工芸技術は、加賀友禅、輪島塗、九谷焼などに代表される、地域に根ざした職人技術と美意識を体現する工芸分野です。

石川県の工業の特徴

石川県の工業の特徴を下表にまとめます。

基幹産業特徴
・機械(70%)
・繊維
・食品
・IT
・ニッチトップが多い
・100年企業数は501社
・日本一のシェアを持つ石川の企業は70社以上
・世界シェア100位以内の企業は7社

石川県の製品の生産額と全国シェア

少々古いデータですが、下表は、石川県で高い全国シェアと生産額を誇る製品を表しています。下記の表のとおり、生産額が最も大きいのは「事務所用・店舗用装備品」です(生産額:37,331百万円、全国シェア:25.4%)。具体的には、パーティション、内装建材、手押し台車などが該当します。その次に「ローラチェーン」が続きます(生産額:20,537百万円、全国シェア:41.0%)。

一方、全国シェアが最も大きいのは、金属はく(打はく)です(生産額:1,839百万円、全国シェア:83.4%)。次に、「合成繊維長繊維織物精錬・漂白・染色、レーヨン風合成繊維織物機械整理仕上げ」が続きます(生産額:13,605百万円、全国シェア:78.4%)。

それぞれの生産メーカーについては次の項目で説明します。

石川県の企業ごとの製品シェア

下表は、高い全国シェアを誇る製品とそのメーカーを表しています。いわゆる「ニッチトップ企業」がこの表に含まれます。国内で高いシェアをもつ製品メーカーだけでなく、世界で高いシェアをもつ製品メーカーもあります。石川県の産業を支えている企業です。ぜひじっくりとご覧ください。

石川県のニッチトップ企業の最新一覧は、石川県商工労働部産業政策課サイトの「一覧紹介(PDF:194KB)」からご覧いただけます。

石川県の輸出動向

参考までに、石川県の輸出額推移のグラフを掲載します。詳細な内訳は省きますが、概要として、工作機械・織機は、ヨーロッパ・アジアに多数輸出されており、高度な精密加工機械として世界的評価が高いです。電子・IT関連機器も高精度・高信頼性を背景に欧米やアジア市場で人気です。そのほか、チェーン・搬送機器・部品も海外展開されており、金箔などの伝統工芸品が海外で広く流通しているのはご存じのとおりです。

石川県の工業の成り立ち

では、こうした石川県の工業はどのようにして始まったのでしょうか?時代は中世まで遡ります。

石川県の工業のはじまりは穴水町です。穴水町の中居地区は、平安時代から大正末期まで約800年間、鋳物(いもの)で栄えました。鋳物とは、金属を鋳造という方法で成形したものを指します。金属(鉄・アルミ・銅など)を溶解炉で溶かし、あらかじめ用意した鋳型(いがた)に流し込み、冷却・凝固させて取り出したものが「鋳物」です。

鋳物として、塩釜、鍋、釜などの生活用品をはじめ、江戸期には鉄砲、大砲、刀剣、釘、包丁などの武器や道具類も製造されました。明治以降は、工作機械や機械部品などの近代工業用鋳物へと発展しました。

石川県の産業集積の系譜

石川県の産業の発展をみてみます。大まかにいうと、前述のとおり中世の鋳物業から始まり、加賀藩の文化・技術政策を土台として、近代以降の機械・電子・IT産業へと多様に発展してきました。少し細かくいうと、石川県の産業の出発点は、大きく分けて2つあります。1つは「加賀文化(前田家の伝統工芸振興策)」であり、もう1つは「鉱山(竹内工業)」です。これらの流れを下表に整理しました。

石川県の産業の出発点(加賀文化と鉱山)

前述の石川県の産業の出発点2つを下表に整理します。

加賀文化系(前田家の伝統工芸振興策)鉱山系(竹内明太郎の鉱山開発)
出発点加賀藩の文化政策と御細工所
・前田家(加賀藩)は、江戸時代を通じて芸術・工芸を奨励。
・御細工所に全国から職人を集め、蒔絵、象嵌、漆器、和紙、竹細工などの工芸技術を集積。
・地元の職人も登用し、文化・技術の融合が進んだ。
竹内明太郎による遊泉寺銅山の開発(明治35年)
・鉱山開発のためにインフラ整備(専用鉄道、発電所、精錬所)を実施。
・機械化・電化を進め、最新鋭の工業技術が石川に導入された起点となる。
産業への発展・和紙・織物 → 製糸業 → 力織機の開発(津田米次郎) → 織機産業(津田駒工業)
・工芸技術 → 精密加工技術 → 工作機械産業(中村留、高松機械など)
・美意識・手仕事の伝統 → IT機器や医療機器にも受け継がれる“品質志向”
・鉱山用設備・機械 → 小松鉄工所 → 小松製作所(コマツ)の創立(1921年)
・小松製作所 → 建設機械 → ブルドーザ、トラクタ、ペイローダなどの国内初モデルを開発
・鉱山から出発しながら、のちに“世界のコマツ”へ
関連企業・業種・津田駒工業、中村留精密工業、高松機械工業
・金沢漆器、小松ウォール、コマニー(金属・内装建材)
・小松製作所(コマツ)、共和工業所、小松鋼機
・建設機械、鍛造、板金、精密部品、重機部品製造

伝統的な工芸系技術(精密・デザイン性)と、鉱山系の近代工業技術(スケール・構造力学)が交わり、工作機械、搬送機器、食品機械、建設機械、IT機器と多角的に発展しました。これが石川県の特徴である「多品種・高品質・中小企業連携型」のモノづくり土壌につながっています。

まとめ

石川県の産業の歴史、いかがだったでしょうか?本記事では、概要だけを紹介しています。各産業について掘り下げた記事も追って掲載できたらいいと考えています。また今回は触れませんでしたが、各ニッチトップの特許出願についても、追ってまとめてみたいと考えてみます。

個別に気になる産業の情報や、その知財に関する情報が必要な場合は、IPアドバイザリーまでお気軽にお問い合わせください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県野々市市にて特許関連の各種業務を行なっています。販路開拓や知財コンサル、特許翻訳のことなどどうぞお気軽にお問い合せください。
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