新しいGDP算出基準における知的財産の計算の考察
新しいGDP算出基準(仮称「2025SNA」)
2025年1月8日の日経新聞に、「GDP算出、データ整備も捕捉へ 日本は14兆円上振れも」当記事が掲載されました。
記事によると、国連が2025年に採択予定の新しいGDP算出基準(仮称「2025SNA」)により、デジタル経済で生成されるデータの価値をGDPに反映する動きが始まるそうです。この基準では、電子商取引やセンサー計測データなどのデータ整備が設備投資として計上されるようになり、日本の名目GDPは1〜2%上昇すると試算されています。新基準では、データの耐用年数が原則1年以上とみなされ、資産計上される方向で議論が進んでいます。これにより、これまで「中間消費」として扱われてきたデータが、生産要素として位置づけられることになるそうです。
この記事を読んですぐに筆者の頭をよぎったのは、知的財産の計上はどうなるのだろう?ということでした。そして、現行の制度を調べてみると、「2025SNA」の前の「2008SNA」の改定において、知的財産を資産として計上する項目「知的財産生産物」が定められていたようです。
知的財産生産物
SNA(国民経済計算体系)は国連が定めている世界基準であり、「2008SNA」は2008年に定められ、日本では2016年から利用されているとのことです。以下の引用のとおり、GDPを構成する「固定資本形成」には、無形資産への投資を計上した「知的財産生産物」という項目が新設されており、ここには「研究・開発」、「コンピュータソフトウェア」、「鉱物探査・評価」が含まれています。
1990年代以降の情報通信技術の進歩の中で、経済活動における技術や経営に関する知識の重要性が高まっている。経済活動を包括的に把握する統計体系である国民経済計算においても、「知識」を生産に用いる資産として計上するよう改定が行われてきている。
最新の国際基準である「2008SNA」では、こうした資産を「知的財産生産物」と名付け、具体的な内容として研究開発、鉱物探査・評価、コンピューター・ソフトウエアおよびデータベース、娯楽・文学・芸術作品の原本を挙げている。知的財産生産物に対する各期の支出額は投資として国内総生産(GDP)にも含まれる。
日本の国民経済計算でも、2011年までに自社開発分を含めたコンピューター・ソフトウエア全体を、16年から研究開発や鉱物探査・評価を資産として計上している。日本の知的財産生産物は18年末で147兆円と、住宅、建物、機械設備などを合わせた固定資産全体の約8%を占めている。また、同年中の投資額は30兆円と、官民合わせた投資額全体(総固定資本形成)の約2割を占めている。
引用:第41回「「知識」を資産に 統計反映」
貸借対照表における知的財産の計上
マクロ的には「知的財産生産物」は、GDPの計算において「固定資本形成」含まれることがわかりました。それではミクロ的には、各企業において知的財産はどのような会計処理をされているでしょうか?貸借対照表で考えてみます。
知的財産、ノウハウ、人材、ブランド力などは大切な経営資源であり、無形資産であると考えられます。したがって、知的財産は「資産」の項目に計上されそうですよね。しかし実際には、貸借対照表のどの項目にも計上されません。知的財産が優れていて企業の付加価値を生みだしていたとしても、資産としては計上されないのです。一方、外部から取得した知的財産については、貸借対照表において資産として扱われます。
この理由について、下記のように定められています。
財務会計では会社間の財務数値の比較可能性や公正性を重視しており、貸借対照表上の「資産」の範囲を①その資産に起因して、将来の経済的便益(収入アップや費用の削減)につながる可能性が高いこと、及び②資産の取得原価を信頼性をもって算定できることを満たす場合のみに限定しているためである。
例えば、会社内部で特許を取得するための研究開発や調査などのコストが発生したとする。コスト発生時点では、最終的に特許権として認められ、ライセンス収入など将来の経済的便益につながるものかどうかの判断は難しく不確実性が高いため、①の要件を満たさす資産としての計上はできないことになる。
一方、外部から特許権を取得(企業結合の一部として取得した場合を含む)した場合は、将来の経済的便益につながるものとして取引が行われたものとみなされ(①の要件)、特許権としての取引価格が特定される(②の要件)ことから、当該取引価格で資産計上が行われる。
引用:「財産」であっても財務諸表に載らない知的財産に注意せよ
企業価値-有形資産=無形資産(知的財産など)
「我国的翻译行业现状是什么样的?北京翻译公司总结了3点(知行翻译公司 2024-01-29)」の機械翻訳
それでもやはり、知的財産は企業にとって財産です。優れた知的財産を持っている会社は、強いブランド力を持った会社や優れた人材を持っている会社と同様に、財務データの外側で企業価値が高いと評価されます。これらの評価を数値化したい場合には、企業価値(株価)から有形資産を引いたものが付加価値となり、この付加価値に知的財産を含む無形資産が含まれると考えます。図で説明すると以下のようになります。
引用元:超 知財・人間宝®・技術・資材 戦略情報誌・Newテクノマート 創 vol. 27 2019.1
コーポレートガバナンス・コード
こうした考えを強化するために、2015年に東京証券取引所から「コーポレートガバナンス・コード」というものが策定されました。コーポレートガバナンス・コードとは、企業が持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するための原則を示した指針です。主に、企業の経営の透明性、公正性、効率性を高め、株主やステークホルダーとの信頼関係を構築することを目的としています。コーポレートガバナンス・コードは2021年6月に改訂されたのですが、この改訂において、企業のIR情報に知的財産に関する情報を開示することが求められるようになりました。知的財産に関する情報は、投資家が企業価値を判断する際に重要視される情報ということです。
GDP算出方法
ここで再びGDPの話に戻ります。GDP算出における知的財産の位置づけについて考える前に、GDP算出方法を整理します。GDPとは、一国の経済規模や成長率がわかる最も重要な経済統計であり、個人の消費活動や企業の投資・生産・サービスから生まれる付加価値を合計したものです。GDPの計算方法には3つの方法があります。
引用元:【GDPとは?】いまさら聞けないGDPの基礎情報!GNIとの違いは?実質GDPと名目GDPって何?
GDP算出における知的財産の位置づけ
以上をまとめると、知的財産はGDPにおいて以下の形で反映されます。
- 固定資本形成としての知的財産
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- 研究開発(R&D):例: 製薬業界の新薬開発費用
- ソフトウェア:例: IT企業のソフトウェア開発費用
- データベース:例: EC購入データ、位置情報データ
- 著作物:映画、音楽、書籍などの制作費用
- (2) 付加価値
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- 商品やサービスの価格への反映
- 知財ライセンス料やロイヤルティ
- 独自技術の活用
知的財産は、GDP算出において「固定資本形成」と「付加価値」の両面で重要な役割を果たしています。特にデジタル時代において、知的財産の運用を促進することで、経済成長と競争力の向上が期待されています。