WIPOの生成AIに関する特許出願動向レポートの概要

目次

WIPOの生成型AIに関する特許出願動向レポート

世界知的所有権機関(WIPO)は、2024年7月3日に生成AI特許ランドスケープレポートを公表しました。概要について以下にまとめます。

生成型AIとは

生成AI(Generative AI)は、深層学習を中心とする機械学習の一分野であり、新しいデータ(画像、文章、音声、動画、3Dモデルなど)を生成する能力を持つAI技術の総称です。この技術は、単なる分析や分類にとどまらず、創造的なアウトプットを提供できる点が特徴です。例えば、AIによる画像生成モデル(例:DALL-E)、文章生成モデル(例:GPTシリーズ)、音声合成モデル(例:WaveNet)などがこの技術の代表例です。

技術の歴史と進化

生成型AIの基盤技術である生成型敵対的ネットワーク(GANs)は、2014年にIan Goodfellowらによって提唱されました。この技術により、AIは本物そっくりの画像や音声を生成できるようになり、急速な発展を遂げました。その後、Transformerアーキテクチャを基盤とした大規模言語モデル(LLM)の登場により、テキスト生成が大きく進化しました。OpenAIのGPTシリーズはその代表例であり、特にChatGPTは一般ユーザー向けにリリースされ、生成型AI技術が商業的に利用される大きな契機となりました。

社会への影響

生成型AIは、画像や文章の自動生成、音声合成、翻訳、カスタマーサポートなど、多岐にわたる分野で活用されています。これにより、人々の生活や仕事の効率が向上し、新たな産業が創出されています。一方で、偽情報の拡散や著作権問題など、社会的課題も浮き彫りになっています。

生成型AI技術の主要構成要素

生成型AIの成功は、以下のような技術的要素によって支えられています。

生成型敵対的ネットワーク(GANs)

GANsは、生成モデル(Generator)と識別モデル(Discriminator)の2つのネットワークを用いる技術です。生成モデルがデータを生成し、識別モデルがそれが本物か偽物かを判定することで、双方が相互に進化し、よりリアルなデータを生成できるようになります。

大規模言語モデル(LLMs)

Transformerアーキテクチャに基づくLLMsは、自然言語処理の分野で画期的な進歩をもたらしました。これにより、大規模なテキストデータから学習し、人間のような文章生成が可能になりました。GPT、BERT、T5などが代表的なモデルです。

拡散モデル

GANsやLLMsに続き、画像生成の分野では拡散モデルが注目されています。これらはノイズを追加しながらデータを生成し、逆方向にノイズを取り除くことでリアルな画像を作り出す技術です。DALL-E 2やStable Diffusionがその成功例です。

その他の補助技術

強化学習や注意メカニズム(Attention Mechanism)、自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)などの技術も生成型AIの発展に貢献しています。

特許出願の現状と地域別の動向

生成型AIの特許出願数はここ数年で急増しています。この動向は、技術の進化と商業的可能性の両面を反映しています。

※以下に示す特許出願件数は特許ファミリーの出願件数をいいます。画像はすべて、WIPOからの引用です。

特許出願件数の増加

2014年には733件だった生成型AI関連の特許出願件数は、2023年には14,000件を超える規模に成長しました。この背景には、生成型AIが単なる研究テーマから、商業的に重要な技術分野へと移行したことがあります。

地域別の出願傾向

中国が最も多くの特許出願を行っており、米国、韓国、日本がこれに続きます。中国の企業や研究機関は、生成型AIの基盤技術や応用技術に関する特許を積極的に取得しており、政府の支援もその背景にあります。出願件数の成長率で見ると、インドが最も高い成長率を示しており、中国、韓国がこれに続きます。

主要企業と研究機関

Tencent、Ping An、Baidu、Google、IBMなどが特許出願の上位を占めています。これらの企業は、生成型AIの基盤技術だけでなく、具体的な応用分野(医療、エンターテインメント、教育など)に焦点を当てた特許も取得しています。

モデル別の出願傾向

モデルごとに得意分野が異なり、多様な産業で利用されています。

1. GAN(生成的敵対的ネットワーク)

GANに関連する特許ファミリーは2014年から2023年の間に約9,700件に達し、2023年だけで約2,400件が公開されました。GAN関連特許は生成型AIの中で最多を占めていますが、2020年以降、成長速度がやや減少傾向にあります。主に画像生成、動画処理、データ強化、医療画像分析、ゲーム開発などで利用されています。

2. 拡散モデル(Diffusion Models)

拡散モデルは最近注目され始めた技術で、2021年以降、急速に特許出願が増加しています。まだGANの件数には及びませんが、2023年に成長率が最高値を記録しました。高解像度画像生成、3Dモデルの作成、フォトリアリスティックなデザインなどの分野で利用されています。

3. 大規模言語モデル(LLM: Large Language Models)

GPTシリーズやBERTなどのモデルが主導するLLM関連特許は、2020年以降急増しました。2023年時点で数千件規模の特許ファミリーが公開されています。テキスト生成、翻訳、カスタマーサポート、チャットボット、教育など幅広いで応用されています。

4. 変分オートエンコーダー(VAE: Variational Autoencoders)

VAEに関連する特許は2017年から2019年にかけて多く出願されましたが、2020年以降は他の技術(GANや拡散モデル)に比べて出願件数が減少しています。データ圧縮、異常検知、生成タスクにおける基礎的研究で利用されています。

5. ハイブリッドモデル

GANと拡散モデル、またはGANとLLMなどを組み合わせたハイブリッドモデルの特許も増えています。特に2023年には、異なる技術を統合した応用例(例: テキストから画像生成)が特許に反映されています。複雑な生成タスク(例: マルチモーダル生成)や、効率的な学習手法の実現に利用されています。

応用分野と市場展開

生成型AIの応用分野は多岐にわたり、さまざまな領域で活用されています。

エンターテインメント

映画制作、ゲーム開発、音楽生成、広告クリエイティブなどで活用。AI生成のキャラクターやシナリオ作成が新たな創造性を提供しています。

医療とライフサイエンス

合成データの生成により、医薬品開発や分子設計の効率が向上。また、医療診断の補助や患者ケアにおいてもAI生成技術が活用されています。

教育とトレーニング

カスタマイズされた教育コンテンツの生成、シミュレーション訓練の提供など、個別学習の支援が進んでいます。

ビジネスとマーケティング

自動レポート生成、チャットボットの開発、ターゲティング広告の最適化など、ビジネス効率を向上させるツールとして利用されています。

課題とリスク

技術の進化に伴い、以下の課題が指摘されています。

倫理的懸念

偽情報の生成やディープフェイクの悪用など、倫理的問題が増加しています。

法的問題

著作権侵害やデータプライバシーの懸念があり、これらを解決するための規制が求められています。

技術的限界

モデルのバイアスや透明性の欠如が課題として挙げられます。これにより、公平性が損なわれるリスクがあります。

未来の展望

生成型AIの未来は明るいと考えられていますが、技術的課題を解決するための取り組みが不可欠です。特に、オープンソース技術の普及や国際的な規制の整備が重要です。

中国の特許出願件数に関する記載の概要

上記のレポート内容から、中国は生成型AIの特許活動において世界の最前線に立っていることがわかりました。2014年から2023年の間に、中国は発明者住所が記載された特許に基づき、38,000件以上の特許を公開しました。2017年以降、中国はこの分野で毎年、他のすべての国を合わせた以上の特許を公開しています。

これに対し、アメリカは2014年から2023年にかけて約6,300件の特許出願で2位に位置しています。

レポートによると、上位5社の特許所有者のうち4社が中国企業であり、それにはTencent、Ping An、Baidu、中国科学院が含まれています。一方、生成型AIのリーダーとして認知されているOpenAIはトップ20に含まれておらず、2023年までに公開された特許がないことが明記されています(おそらく非営利組織としての起源が影響していると考えられます)。

また、特許出願が必ずしもこの分野のイノベーションリーダーシップと一致しないことを示す例として、WIPOによるとアメリカと中国は科学論文の発表数でほぼ同数であるものの、アメリカの論文は引用される頻度が大幅に高いことが挙げられます。

こうした状況から、特許活動が必ずしもイノベーションを反映しているとは限らないと、本レポートは指摘しています。このような中国のイノベーションと特許活動の間のギャップは、中国における特許出願を促進する市場を歪めるインセンティブに関連している可能性があります。これには、現金補助金、ハイテク企業(HTNE)プログラムを通じた法人税率の軽減、上海証券取引所の科学技術イノベーションボードへの上場要件としての特許出願などが含まれます。

WIPOによる生成AIの特許分析について紹介しました。IPアドバイザリーでも、技術テーマに応じて同様の特許分析が可能です。お気軽にお問い合わせください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県野々市市にて特許関連の各種業務を行なっています。販路開拓や知財コンサル、特許翻訳のことなどどうぞお気軽にお問い合せください。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次