特許の経済的価値を評価するためのYKS手法とは?

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YK値に関する新聞記事「特許競争力、三菱ケミが首位‐素材が上位」

「特許競争力の総合順位」が発表されていました。特許競争力が高い特許とは、どのような特許でしょうか?この新聞記事ではYK値が取り上げられているので、YK値を用いた特許競争力の計算方法をご紹介したいと思います。

特許競争力、三菱ケミが首位‐素材が上位

素材大手が特許の競争力を高めている。日本経済新聞社が特許事務所の協力を得て調べたところ、国内上場企業で最も競争力があるのは三菱ケミカルグループだった。大日本印刷(DNP)や旭化成も上位に並んだ。パナソニックホールディングス(HD)などの電機大手は振るわなかった。

工藤一郎国際特許事務所が開発した、特許の価値を経済的な側面から評価する「YK値」を調べた。YK値は特許の閲覧請求、異議申し立て、無効審判の件数などを基に算出する。数値の大きさは競合を排除して市場を独占する力が強いことを示す。

10月時点でランキング1位は三菱ケミカルだった。製品ごとに知的財産戦略を練り、特許の競争力を高めている。近年は持続可能性に力を入れ、リサイクル材料などを活用した樹脂関連製品の出願が多い。電池材料関連なども強い。 2位のDNPも化学合成樹脂や生活用品・エンタメ領域で伸びが目立つ。

引用元:日本経済新聞2024年12月28日

YKS手法

上記記事で登場する「YK値」について、少し解説したいと思います。記事にある、「閲覧請求」とは、特許や特許出願に関する詳細な情報(出願書類や審査経過など)を確認するために行う手続きです。競合はその特許が気になっているということです。また、「異議申し立て」とは、特許庁によって登録された特許が、適正に認められたものかどうかを第三者に審査してもらうための手続きです。異議申し立てが認められた場合、特許の全部または一部が無効となります。競合は、その特許が邪魔ということです。「無効審判」とは、既に登録された特許が法律上無効であることを主張し、特許庁にその特許の効力を取り消すよう求める手続きです。この場合も、競合はその特許が邪魔で、これがあると商売に支障をきたす、ということです。

YK値とは、簡単に言うと特許の強さの定量化です。YK値が高いと、影響力が大きく、技術的に重要で、したがって、市場価値も高いということになります。YK値の計算のもとになっている考えであるYKS手法というものがあります。YKS手法は、特許の価値を評価するために開発された手法で、特許が第三者から受ける関心や攻撃の履歴に基づいて価値を算出します。特許価値を定量化することで、企業の技術競争力や戦略的な特許管理をサポートする有力な手法です。この手法を用いることで、特許の価値やリスクを効率的かつ客観的に評価でき、企業戦略や市場分析に幅広く応用可能です。工藤一郎国際特許事務所所長が提唱したYKS手法の説明や計算方法を以下にまとめました。

参照元:YKS 手法、PQ 手法による企業特許価値評価

YKS手法の構成要素

  1. YK値
定義

特許に対する攻撃(情報提供、閲覧請求、無効審判請求など)の履歴を基にしたスコア。

計算の概要
  • 各攻撃の費用(例: 情報提供13万円、無効審判18.5万円)を基に評価。
  • 攻撃が行われた時点からの経過時間を考慮し、価値を減衰させる。
  • 減衰には正規分布に基づく陳腐化率モデルを使用。
目的
  • 特許の競争力や重要性を評価。
  • 他社特許との比較に利用。

2. YK3値

定義

YK値を基に、自社が特許にどれだけ投資しているか(持続可能性)を加味した指標

計算方法
  • 自社の投資額やリソース(開発費用、訴訟対応費用など)を特許ごとに考慮
  • 持続可能な特許価値を評価するための指標として活用

YKS手法の特徴

陳腐化率を考慮
  • 特許の価値が時間の経過とともに減少することをモデル化
  • 技術分野ごとの陳腐化率(減衰係数 λ)を設定し、適切に評価
客観性
  • 攻撃の履歴という具体的なデータに基づき評価するため、主観を排除
  • 他社特許や技術分野との比較が可能
実用性
  • 特許ポートフォリオ管理、技術戦略の立案、企業評価に役立つ
  • 特許価値を株価や倒産リスクなどの経済指標と関連付けて活用可能

YKS手法の応用例

技術競争力の分析

特許ポートフォリオの強みを可視化し、重点的に管理すべき特許を特定

市場価値の評価

特許価値と株式市場でのパフォーマンス(株価、投資リスク)との相関を分析

倒産リスクの推定

企業の特許価値が低下した場合の倒産リスクを推定

特許訴訟戦略

攻撃を受けやすい特許の分析を通じて、無効化リスクを軽減

計算の具体例

条件
特許Aに対して行われた攻撃
  1. 情報提供: 費用13万円、攻撃から5年経過
  2. 無効審判請求: 費用18.5万円、攻撃から3年経過
陳腐化率 λ

IT分野では 0.200.200.20(年間20%減衰)

計算

その他の手法

YKS手法について紹介しました。特許権の経済的評価には一般に、技術的価値評価(特許明細自体の評価を含む)と、経済的価値評価が含まれます。上記で説明したYKS手法は、技術的価値評価に該当します。経済的価値評価としては、「PQ手法」という手法があるとのことですが、ここでは説明を省略します。

特許の現在価値を計算する方法の中で最も一般的な方法に、「ロイヤルティ免除法」という方法があります。以前にブログで紹介したので、併せてご覧いただけるとうれしいです。

IPアドバイザリーには、知的財産アナリストが常駐しています。知的財産アナリストは、知財、財務、経営のプロフェッショナルです。特許の価値評価についても、多観点から助言させていただくことが可能です。お気軽にお問い合わせください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県野々市市にて特許関連の各種業務を行なっています。販路開拓や知財コンサル、特許翻訳のことなどどうぞお気軽にお問い合せください。
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