置き薬商法
「置き薬商法」をご存じですか?300年以上前から続いている配置薬の先用後利システムです。訪問販売員が家庭や企業を訪問し、いくつかの種類の医薬品が入った薬箱を無料で配置し、次回訪問時に使用した分だけ薬の代金を集金します。薬を常備しておくことができ、防犯グッズとして利用することもできます。また現代のサブスクのようなシステムのため、必要外の費用を抑えることができます。
置き薬箱に入れておく医薬品は、医薬品の使用状況、顧客のニーズ、生活様式、家族構成、会話履歴などに応じて選択します。訪問販売員はかつて、顧客に関する情報や薬の使用量・使用履歴を記録しておく顧客台帳「懸場帳(かけばちょう)」を持ち歩き、訪問先で健康アドバイスなども行っていました。置き薬商法がマーケティングの原点と言われる所以です。このように配置薬の利便性と顧客とのコミュニケーションから生まれる信頼関係が相まって、置き薬は地域の人々に受け入れられてきました。
筆者は石川県出身ですが、子どもの頃、置き薬を販売するセールスマンは「富山の薬売り」と呼ばれていました。子どもたちへのおまけとして紙の風船が配布されました。筆者もこの風船をふくらまして遊んでいた思い出があります。
置き薬ビジネスにおけるDX
医療現場ではDXが進められています。パンデミック発生以降に「受診控え」問題が顕著になっていること、高齢者にとって病院、薬局へのアクセスが負担になっていること、医療従事者の働き方改革の問題などが課題として挙げられています。たとえば高齢者対策としては、オンライン診断、服薬指導、医薬品配達の一連の機能を備え、病院までの移動、薬局での受け取りの負担を軽減し、通院時の二次感染の不安を緩和するシステムが開発されています。
置き薬商法においてはどうでしょうか。訪問、薬の配置、顧客との会話、顧客情報の収集・分析、再訪問、薬の補充といった業務フローのなかで改善を行うために、どのような取り組みがなされているのでしょうか。置き薬DXについて特許出願をもとに調べてみました。今回は、北陸の置き薬企業をピックアップして、その企業が取り組んできた置き薬DXを順にみてみたいと思います。
置き薬国内シェアNo.1の富士薬品
置き薬といえば富山県ですね。富山県で創業した株式会社富士薬品に注目しました。
株式会社富士薬品(ふじやくひん)は配置薬の販売や医療用医薬品の販売、調剤薬局・ドラッグストアを経営する日本の企業。ドラッグストア事業は関東地方を中心に「ドラッグセイムス」の名称で店舗展開しているほか、調剤薬局も運営している。
創業地富山市での配置薬事業が起源。創業家の同族経営。日本全国に営業所を設置して配置薬の販売を行っており、配置薬の分野では業界1位。テレビ・ラジオのCM(TBS系)も配置薬が中心。自社の富山工場でプライベートブランド(配置薬・セイムス等で販売)の一般用医薬品を中心とした製品生産も行っている。風邪薬の「ジキナ」・ビタミンB2・ビタミンB6製剤の「セイムビタン」が主な製品である。近年では医療用医薬品の研究開発や製造販売も行う。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%8C%E5%A3%AB%E8%96%AC%E5%93%81
富士薬品の置き薬事業
1930年、富山県で創業した配置薬事業は、いまでは全国285ヵ所に拠点を展開し、300万軒のお客さまに「置き薬」を販売しています。配置薬事業を始めた後は、医薬品の製造にも事業領域を広げたことで、製販一体のビジネスモデルを確立できました。これによって収益基盤がより強固になり、高収益型の事業モデルを構築できたことが、後のドラッグストア事業と医薬品開発事業への展開につながっていったのです。
https://k-tsushin.jp/interview/fujiyakuhin/
上記記事によると、ドラッグストア事業関連のサービスとして、「2wayチャネル」という配置薬とドラッグストアを組み合わせたサービスを今後展開していくとのことです。配置薬を置いてもらっている顧客に対して、ドラッグストアの商品や付随するサービスを届けるプランということです。
置き薬に関する特許出願4件(富士薬品)
株式会社富士薬品の特許出願を調べたところ、約600件の特許が出願されていました。医薬品に関する出願が大半でしたが、置き薬に関する出願が数件ありました。新しい出願から順に紹介します。
【発明の名称】訪問販売管理システム
【公開番号】特開2022-166537(2021年4月21日出願)
【出願人】株式会社富士薬品
訪問販売員が、配置薬の補充の際に、配置薬のバーコードを携帯端末で読み取って運営側管理装置に送信する。運営側管理装置では、事前に登録してある配置薬の情報に基づいて、その配置薬が定期購買に適した商品(利用回数が多い医薬品、栄養ドリンクなど)であるかどうかを判定する。この判定内容を訪問担当者に送信することで、訪問担当者の意思決定を支援し、定期購買のための商品提案を効率的に行う。さらに、商品の清算にはキャッシュレス決済を利用することで利便性向上を図ることができる。
【発明の名称】訪問販売管理システム
【公開番号】特開2021-99759(2019年12月24日)
【出願人】株式会社富士薬品
配置薬の訪問担当者が配置薬のバーコードを携帯端末で読み取って販売管理装置に送信する。販売管理装置では、事前に登録してある配置薬に関する情報(使用期限など)に基づいて、配置薬の処理に関する情報(配置指示・配置許可、回収指示・配置禁止指示)を判定する。この情報を訪問担当者に送信することで、訪問担当者の意思決定を支援する。これにより、経験の浅い訪問担当者は商品の補充や返却を適切に行うことができ、顧客満足度を高めることができる。
【発明の名称】配置薬箱システム
【公開番号】特開平10-234825(1997年2月20日)
【出願人】株式会社コスモ薬品(富士薬品の関連会社)
配置薬箱内に薬の出し入れを検知するセンサを設け、検知時間間隔を測定する。検知時間間隔が所定時間よりも長いときに、薬が取り出されて使用されたと判断する。薬が使用されたという情報は管理装置に送信される。これにより、配置薬の在庫状況を訪問前に把握することができ、効率的な補充や返却を行うことができる。
【発明の名称】家庭用配置薬の配置期限表示体
【公開番号】特開平9-328114
【出願人】株式会社富士薬品
配置薬を保管箱に入れたときに配置薬の外側が上になる面に目印線と表示部を設け、目印線の切れ目の個数によって配置期限を示す。目印線の切れ目の個数は、薬の保管期間である「5年」を基礎として1~5個設けられている。これにより訪問販売員は、配置期限を一目して知ることができ、配置薬の外側に記載されている保管期限の文字を一つ一つ見て確認する手間が省ける。
この特許にはDXの要素がありませんが、富士薬品の置き薬に関する最初の特許ということで、おまけで掲載しました。
その他出願人の置き薬に関する特許出願
【発明の名称】薬箱およびネットワークシステム
【公開番号】特開2021-401
【出願人】シャープ株式会社
https://patents.google.com/patent/JP2021000401A/ja?oq=JP2021000401A
【発明の名称】配置薬販売効率化システム
【公開番号】特開2017-10177
【出願人】谷村武洋
https://patents.google.com/patent/JP2017010177A/ja?oq=JP2017010177A
【発明の名称】配置販売システム、商品管理サーバ、プログラムおよび記録媒体
【公開番号】特開2014-35707(2012.8.9)
【出願人】シャープ株式会社
https://patents.google.com/patent/JP2014035707A/ja?oq=JP2014035707A
【発明の名称】顧客訪問スケジュール作成装置
【公開番号】特開平9-161111
【出願人】津村賢治、高安俊幸
https://patents.google.com/patent/JPH09161111A/ja?oq=JPH09161111A
これらの置き薬に関する特許を抽出するために使用した検索式(J-PlatPat使用)は以下のとおりです。
[配置薬/TX+置き薬/TX+おきぐすり/TX+置きぐすり/TX+配置用薬/TX+置薬/TX]+[(訪問販売+配置販売+定期購買+対面販売+先用後利+後払),20N,薬/TX]
今後の置き薬ビジネス
上記特許出願をみると、置き薬商法では、顧客満足度向上のための新サービスの開発、訪問販売員の業務フロー改善、顧客情報のデータ活用など、さまざまなDXがすすめられてきたことがわかります。最近ではAI技術が目覚ましいスピードで発展しています。顧客はAIとオンラインで会話し、薬はドローンで配達されるといった未来も遠くないかもしれません。