中国で商標を登録する方法
中国で商標を登録する方法として、中国国家知識産権局(CNIPA)に直接出願するルート(以下「直接出願」)と、「マドリッド協定議定書」に基づいて、本国の商標出願または登録を基礎に中国を指定することにより出願するルート(以下「マドプロ出願」)の2つがあります。それぞれのルートにはメリットとデメリットがありますが、中国への商標出願においては、直接出願を採用するケースが増えてきています。
以下のグラフは、日本から国際出願する場合のマドプロ出願や直接出願の割合と、各国への出願ルートを示しています。 右のグラフによると、中国への直接出願件数(赤色)が多いことがわかります。
出典:令和3年度 商標出願動向調査報告書(概要)-マクロ調査-
中国への商標出願で直接出願が採用されるようになっている主な理由として、以下の2点が挙げられます。
- 近年中国での審査期間が短縮化されており国際登録出願をするより直接出願をした方が権利化までの期間が早い場合が多い。
- 権利行使の際に直接出願の場合は中国語の商標登録証が発行されるが、国際登録出願の場合は英語での登録証明書となり、権利行使する際に中国語での翻訳文が必要となる。英語での商品・役務名だと曖昧に判断される場合もあり、意図していた通りの権利範囲となっていない場合もある。このように直接出願の方が、権利範囲が明確となる。
本記事では、中国においてはより利便性が高いとされている、商標の直接出願方法について紹介します。
中国での商標出願の概要(日本との比較)
中国商標の出願について、日本の場合の比較しながら概要を以下に説明します(詳細については後述します)
日本 | 中国 | |
登録できる商標 | ・通常の商標 ・団体商標 ・地域団体商標 ・立体商標 ・動き、ホログラム、色彩、音、位置商標 ・防護標章 | ・通常の商標 ・立体商標 ・証明商標 ・団体商標 ・色彩商標 ・音声商標 |
権利の発生 | 登録 | 登録 |
存続期間 | 登録日から10年 | 登録日から10年 |
多区分出願 | 〇 | 〇 |
国際分類 | 〇 | 〇 |
出願書類 | ・願書 | ・願書 ・委任状 ・商標見本 ・音声等見本 |
実体審査 | すべての登録要件 | すべての登録要件 |
早期審査 | 〇 | × |
権利不要求 | × | 〇 |
同意書 | × | 〇 |
OAの応答期間 | 40日 | 15日 |
応答期間の延長 | × | × |
異議申立期間 | 公報発行から2か月 | 公告から3か月 |
取消になる不使用期間 | 3年 | 3年 |
無料データベース | 〇 | 〇 |
中国での商標出願の流れ
商標出願の主なポイント
必要な出願書類
- 出願人の中国語と英語表記による住所・氏名(名称)
- 商標に使用する商品・サービスとその区分
- 商標
- 委任状
- 登記簿謄本(個人の場合はパスポートなど)
- 優先権証明書(優先権を主張する場合)
登録可能な商標の種類
- 商標の構成要素による分類・・・文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状、色彩の組合せおよび音声、並びにこれらの要素の組合せ
- 商標の用途と使用者による分類・・・商品商標、役務商標、証明商標、団体商標
- 商標の知名度による分類・・・馳名商標、著名商標
区分
- ニース協定に基づく国際分類を採用している
- 中国国家知識産権局商標局のホームページに「類似商品和服務区分表」が掲載されている(https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/sbsq/sphfwfl/)
- 特定の商品・サービスの区分が、必ずしも日本と同様であるとは限らない点に注意が必要
方式審査
- 願書のチェックなどの形式的な事項の審査のほか、指定商品および指定役務の記載が適切であるか否かの審査も含まれる
- 方式要件を満たさない場合、補正が求められる
- 応答期間は、通知から30日である
- 補正は複数回行うことは原則認められず、審査官の要求に従わない場合は出願の不受理が決定されてしまう
実体審査
- 先願商標と同一・類似であるかといった類否判断など、日本と同様の不登録理由があるかどうか審査される
- 商標の類比は、日本の場合同様、外観・称呼・観念の3点観察がなされる
オフィスアクション
- 拒絶理由には、「全部拒絶」と「一部拒絶」の2種類がある
- 中国では応答の機会が与えられることなく、拒絶査定が通知される
- 拒絶査定に不服がある場合は、国家工商行政管理総局商標評審委員会に対して審判請求を行う。審判請求期間は、拒絶査定の受領日から15日であり、応答期間の延長は認められない
- 審判請求の結論に不服がある場合は、北京市第一中級裁判所に訴えを提起する
拒絶理由
- 主な拒絶理由として、識別力の欠如や、出願された指定商品・役務もしくはこれに類似する商品・役務についての同一または類似の先行する商標の存在が挙げられる
- 先願主義を採用している。中国では、商標出願にかかる費用は安いため(後述)、年々商標出願の件数は増えている(2019年度の中国への商標登録出願の件数は約783万件。日本の商標登録出願の件数は約16万件ほど)。中国商標登録はすぐに出願することが推奨される
登録公開(予備的査定)
- 登録要件を満たす場合、査定されて出願内容が公開される(「予備的査定」、「初歩査定」とも呼ばれ、日本には存在しない制度)
登録公告
- 予備的査定がなされて公開されている商標について、一定期間内に異議申し立てがない場合、登録が許可されて公告される
- 登録査定のあとに特許料を納付する制度はない(登録納付料は無料である)
異議申立
- 権利付与前異議申立制度が採用されている
- 異議申立可能期間は、公告から3か月である
- 異議申立の結論に不服がある場合は不服申立を行う
不使用取消請求
- 3年以上、中国本土で不使用の場合、不使用取消請求の対象となる可能性がある
商標の更新
- 商標登録の存続期間(10年間)が満了すると更新することできる
- 期間が満了する12か月以内に更新の申請をする必要がある
商標権の効力
- 指定商品・指定役務について登録商標を独占排他的に使用できる
- 同一・類似の指定商品・指定役務について、登録商標と同一・類似の商標の第三者の無断使用など、法で定める一定の行為を排除できる
商標出願・更新費用
項目 | 紙での申請料金 | オンラインでの申請料金 |
商標出願(指定商品・サービスの数が10以下) | 300元/1区分 | 270元/1区分 |
追加手数料(指定商品・サービスの数が10を超える場合) | 30元/項目 | 27元/項目 |
更新料 | 500元/1区分 | 450元/1区分 |
- 上記手数料に日本や中国の代理人の費用は含まれません
- 登録査定のあとに特許料を納付する制度はありません
- 1つの区分で指定できる商品(役務)の項目数が10を超えると、超えた項目1つに対し30元の庁費用が発生します
外国出願費用補助制度
日本の特許庁では、中小企業向けに海外商標登録出願の費用の半額を補助する事業を行っています。
- 補助の要件
-
- 応募時に既に日本国特許庁に対して特許、実用新案、意匠又は商標出願済みであり、採択後に同内容の出願を優先権を主張して外国へ年度内に出願を行う予定の案件
- 先行技術調査等の結果からみて、外国での権利取得の可能性が明らかに否定されないこと
- 外国で権利が成立した場合等において「当該権利を活用した事業展開を計画している」又は「商標出願に関し、外国における冒認出願対策の意思を有している」こと
- 外国出願に必要な資金能力及び資金計画を有していること
- 詳しくは以下をご覧ください
-
特許庁ホームページ「外国出願に要する費用の半額を補助します」https://www.jpo.go.jp/support/chusho/shien_gaikokusyutugan.html
どのような商標にすればよいか?
- 商標は中国語で登録する
-
中国語以外の商標登録を申請した場合、中国語で作成された同一または類似の商標から保護されるわけではないので、商標の中国語版を作成することが強く推奨されます。さらに、外国ブランドの既存の漢字名称がない場合、その漢字名称が翻訳または音訳によって現地の消費者に認識される可能性が非常に高いです。しかし、必ずしも外国企業が伝えたい正しい意味合いやイメージで認識されるとは限りません。
また、中国では製品に中国名を付けることが義務付けられています。製品の漢字名を登録しないと、中国での悪意ある商標登録による被害を受けやすくなります。中国は先願主義であるため、中国で先に商標を登録した個人や企業が最終的に保護を受けることになります。その結果、その中国語名の使用を禁止されたり、商標の購入を余儀なくされたりする可能性があります。
- 現地の各分野の専門家の知見を得る
-
中国語の名称を考える際には、商標弁護士・弁理士、マーケター、中国語ネイティブ翻訳者の助けを借りることが推奨されます。そして中国に適した正しいブランドイメージを伝える必要があります。中国語の商標に相当するものを選ぶことは特に重要で、意味だけでなく、商標に選ばれた漢字の音、トーン、さらには見た目もブランドの評価に影響します。
中国で受け入れられる商標を作るためのヒント
商標が特徴的な意味を持つ場合、直訳は有効です(例:アップルコンピュータの「苹果」は「りんご」という意味を持つ)
音訳は、商標の音に似た漢字名を作成することを含みます。ピンインは、ローマ字を使用する公式の中国語表音文字であり、音訳を作成するために使用することができます(例:マクドナルドの「麦当劳」は、マイダンラオと読む)。
同じ音でありながらブランドの決定的な特徴に言及するような、中国文化において肯定的な意味を持つものは、最良の商標と言えます(例:コカ・コーラの「可口可乐」は、Ke Kou Ke Leと読み、「おいしくて楽しい」という意味を持つ)。
参考文献
国家知识产权局商标局 中国商标网(https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/index.html)
日本特許庁(https://www.jpo.go.jp)
令和3年度 商標出願動向調査報告書(概要)-マクロ調査-(特許庁)
見ればわかる!外国商標出願入門 : 主要国での商標出願と国際登録出願の実務(発明推進協会)
Guide to Trade Mark Protection in China(China IPR SME Helpdesk, European Commission)