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各国における発明の単一性とそれを考慮したクレームドラフティング

   前の記事(「日本における発明の単一性|発明の特別な技術的特徴とシフト補正」)で紹介したように、日本では、発明の単一性を満たす一群の発明であれば2つ以上の発明について1つの願書で出願できることが規定されています。日本の企業が出願する可能性の高い米国、欧州及び中国にも、日本の発明の単一性に対応する法制度があります。それぞれの国の発明の単一性に関する制度を理解すれば、各国において適切なクレームを作成することができます。この記事では、米国、欧州及び中国における発明の単一性に関する法律、並びに各国の制度に対応するためのクレームドラフティングについて説明します。

目次

米国における「発明の単一性」

  結論から述べると、米国は発明の単一性に対応する判断が厳しい国です。米国には、日本の単一性判断の類似の制度として限定要求及び選択要求があります。

 以下、限定要求及び選択要求について、説明します。

(1)限定要求
 米国の規則§1.142には、以下のように記載されています。

 §1.142限定要求
(a) 独立した別個の2以上の発明が単一の出願においてクレームされている場合は、審査官は、庁指令によって、出願人に対し、限定要求と呼ばれる(同時に、分割要求としても知られている)当該指令に対する応答として、1の発明を選択し、クレームの対象をその発明に限定するよう要求するものとする。当該要求は通常、実体に関する庁指令の前に行われる。ただし、その要求は、最終処分前の如何なる時期にも行うことができる。
(b) 選択されなかった発明についてのクレームが取り消されなかった場合は、それにも拘らず、そのクレームは、当該選択により、審査官のその後の考慮から取り下げられるが、ただし、限定要求が取り下げられるか又は覆された場合は、原状回復する。
(引用先:特許庁 外国産業財産権制度情報)

 米国では、1つの出願中に2以上の独立した区別可能な発明が含まれていると、発明を選択してクレームを限定するように要求されます。これを、限定要求(Restriction Requirement)と言います。日本では、或る物のクレームと、その物の製造方法のクレームとが同じ出願にあっても、基本的には単一性違反を指摘されずに両方審査してもらえます。しかし、米国では、或る物のクレームと、その物の製造方法のクレームとが同じ出願にある場合、これらの発明は別個であるとして、審査してもらうクレームの選択を迫られることがあります。

 他の例として、電池の発明と、その電池を具備する電子機器の発明とのような、関連が明らかな場合であっても、限定要求を受けることがあります。限定要求に対する対応では、多くの場合、審査官が行ったクレームのグループ分けの中から1つのグループを選択します。

 例を示します。 

  選択しなかったグループのクレームは、取り下げ(withdrawn)または取り消し(cancel)となります。取り下げたクレームは、一定の要件を満たしていれば再結合(rejoinder)されることがあります。再結合されるクレームの関係としては、例えば[プロダクトクレーム]−[その全ての限定事項を含むプロセスクレーム]が挙げられます(MPEP §806.05(f))。

 なお、限定要求に対しては、反論(traverse)することができますが、反論する場合でもグループの選択をしなければなりません。また、反論が認められる可能性は低いこと、審査官の心証を害することといった点で反論にはメリットが少なく、デメリットの方が多いと思われます。限定要求で選択しなかった発明であって、再結合されなかった発明は、分割出願により権利化を図ることができます(特許法第121条)。

(2)選択要求
 一方で米国の規則1.146には、選択要求に関して以下のように記載されています。

 §1.146 種の選択
 属の発明についての属のクレーム及びその属に含まれる、特許性を有する別個の2以上の種のクレームを含む出願に関する最初の庁指令において、審査官は、出願人にその指令に対する応答として、属についてのクレームが許可することができないものと認定された場合は、そのクレームの対象に限定される発明の種を選択するよう要求することができる。ただし、当該出願が合理的な数を超える種を対象とするクレームを含んでいる場合は、審査官は、その出願に関してその後の指令を出す前に、合理的な数の種についてのクレームに限定するよう要求することができる。
(引用先:特許庁 外国産業財産権制度情報)

 簡単に述べると、選択要求(Election Requirement)は、1つの出願に1つの属クレーム(ジェネリッククレーム)とそれに包含される複数の種(species)とが含まれている場合、属クレームが許可されない場合に限定される発明を予め種を選択するよう要求するものです。 

  例を示します。

 上記のように、Generic claimが組成物の発明が記載されていて、1つの特徴として、「アルカリ金属の水酸化物及び芳香族アミン殻なる群より選択される塩基性物質」を含むことが記載されていたとします。そして、従属項として、それぞれの具体例が特定されていたとします。この場合、審査官は「塩基性物質」として「水酸化ナトリウム」、「水酸化カリウム」、「ピリジン」のどれかを選択するように要求してきます。実施例がある場合は、通常、各実施例に対応する種を選択するように要求されます。そして、選択した種に対応するクレーム及び図面(対応するものがある場合)との対応関係を示す必要があります。

限定要求とは異なり、選択しなかった種は取り下げやキャンセルにはなりません。ただ、ジェネリッククレームが許可にならない場合、選択した種に限定されて審査がなされます。 

欧州における発明の単一性

 欧州では、日本と同様に1つの出願において複数の発明が同一の特別な技術的特徴(STF: special technical feature)を有しているか否かで、発明の単一性が判断されます(EPC82条、EPC規則44条(1))。

 しかし、欧州では先行技術に対して進歩性を有して初めて先行技術に対する技術的貢献があるとして、特別な技術的特徴と判断されます。新規性があればSTFであると判断される日本とは、この点で大きく異なります。(参考:https://hasegawa-ip.com/ep-patent/37558666/)また、欧州では原則として発明のカテゴリーごとに1つの独立項しか許されないことにも留意が必要です。 

中国における発明の単一性

 中国でも、1つの出願において複数の発明が同一の特別な技術的特徴を有しているか否かで、発明の単一性が判断されます(専利法第31条第1項、EPC規則44条(1))。

 そして、中国でも欧州と同じく、新規性だけでなく進歩性も具備させる特徴が先行技術に対する技術的貢献があるとして特別な技術的特徴と判断されます(審査指南第2部分第6章2.1.2)。 

各国の制度に対応するためのクレームドラフティング

(1)日本
 まず、日本の場合ですが、発明の単一性を満たすためには、全てのクレームにかかる発明が同一又は対応する特別な技術的特徴を有する必要があります。そのため、出願時には各独立項に係る発明が同一または対応する技術的特徴により技術課題を解決できることを同様のロジックで説明できるように、クレームを立てることが重要であると思われます。

 また、日本で出願する際に、同一または対応する技術的特徴が先行技術から容易に想到できず、その特徴によって顕著な効果が得られることを十分に主張できるような記載を明細書に盛り込んでおくことで、日本出願はもちろん、その優先権を主張して出願する欧州出願や中国出願での「特別な技術的特徴」の要件を満たす可能性を高めることができます。

 少なくとも出願時に把握している先行技術に対する「特別な技術的特徴」に対しては、このような対処をしておくべきであると考えます。

(2)米国
 例えば、最も権利化したい独立項の全ての限定事項を他の独立項に記載しておくといった方策が考えられます。このようにしておけば、限定要求を受けて最も権利化したい独立項を含むグループを選択し、そのグループが許可になれば、選択しなかった独立項は再結合してもられる可能性があります。

(3)欧州
 日本出願の優先権を主張して欧州出願する場合、原則的に1カテゴリー1独立項にすることを検討すべきです。ただし、1独立項にするのが適切でないと判断されれば拒絶理由が出ないため、拒絶理由を受けてから対応することもできます。

 さて、日本出願で1カテゴリーに複数の独立項がある場合、「結合クレーム」を作ることが考えられます。

 例えば、
1.成分A、成分B及び成分Cを含む組成物。
2.成分A、成分B及び成分Dを含む組成物。
というクレームがあったとします。これを結合クレームにすると、

1.成分A、成分B及び成分Cを含む組成物、又は
 成分A、成分B及び成分Dを含む組成物。

にすることができます。欧州では、15クレームを超えると追加料金が発生するので、結合クレームの作成はコスト削減の観点からも有効です。特別な技術的特徴に関しては、日本出願で上記のように対応しておくことが有効であると考えます。

(4)中国
 中国出願における特別な技術的特徴に関しても、日本出願で上記のように対応しておくことが有効であると考えます。 

まとめ

  以上のように、発明の単一性の判断は、各国ごとに異なります。それを踏まえ、日本出願の段階で明細書を作成し、更に、各国ごとに適したクレームドラフティングを行うことにより、1つの出願でできる限り多くの発明を審査してもらうことができ、不要な分割出願をするコストを抑えることができます。

 IPアドバイザリーは、発明の単一性を含め、日本や海外の特許法に精通した事務所と密につながりを持っています。発明の単一性について詳しい情報をご希望の方は、お気軽にご連絡ください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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