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日本でのマルチ−マルチクレーム法改正①

 「注意!各国によって異なるマルチ−マルチクレームの取扱方法」の記事で紹介したように、マルチ−マルチクレームは、最小限のクレーム数で多くの発明の権利化を図ることができる便利な記載方法です。しかし、令和3年12月に特許庁より、マルチ−マルチクレームの制限についての法改正の予定が公表されました(詳しくはこちら)。この公表によると、令和4年4月1日より日本でも米国や中国と同様に、マルチ−マルチクレームが使えなくなる予定です。

この記事では、日本におけるマルチ−マルチクレームの法改正について紹介します。 

目次

マルチ−マルチクレームのおさらい

 まずマルチ−マルチクレームについてのおさらいです。

 特許の書類の一つである「特許請求の範囲」では、複数の請求項を記載することができます。また、先の請求項に記載された発明特定事項を全て含み且つ、更なる発明特定事項で特定される発明を記載する場合には、従属形式(引用形式)の請求項を利用することができます。この従属形式の請求項には、先の一つの請求項を引用する単項従属項と、先の複数の請求項を択一的に引用する多項従属項とがあります。多項従属請求項をマルチクレームといいます。そして、先行するマルチクレームを引用するマルチクレームが、この記事の主役であるマルチ−マルチクレームです。

 以下に、マルチ−マルチクレームを含む特許請求の範囲の例を示します。
 例:
請求項1:成分Aと成分Bとを含むことを特徴とする組成物。
請求項2:成分Cを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
請求項3:成分Dを更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
請求項4:成分Eを更に含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の組成物。

 請求項4は、請求項1及び2と、マルチクレームである請求項3とを択一的に引用しているので、マルチ−マルチクレームと呼ばれる形式です。なお、請求項1は、他の項を引用していないので独立項です。請求項2は、請求項1のみを従属しているので単項従属項です。請求項3は、請求項1及び請求項2を択一的に引用しているので多項従属項(マルチクレーム)です。

 請求項4にかかる発明は、請求項1の組成物を、
 ・成分Eを更に含む組成物(請求項1に従属)
 ・成分Cと成分Eとを更に含む組成物(請求項2に従属)
 ・成分Dと成分Eとを更に含む組成物(請求項1+3に従属)
 ・成分Cと成分Dと成分Eとを更に含む組成物(請求項2+3に従属)
に限定した4つの発明を包含します。

 このように、マルチ−マルチクレームは、多岐にわたる限定を加えた互いに異なる複数の発明を一つの請求項として記載することができる点で便利です。 

日本におけるマルチ−マルチクレームの制限

 マルチ−マルチクレームに関し、令和3年12月特許庁は、

審査処理負担及び第三者の監視負担の軽減並びに国際調和の観点から、マルチマルチクレームを制限することを可能とするため、経済産業省令で定めるところにより特許請求の範囲の記載形式を制約する特許法第36条第6項第4号に基づき、同号が委任する特許法施行規則第24条の3について所要の改正を行う。また、実用新案法施行規則第4条においても同旨の改正を行う。

との公表を行いました。

 これは、すなわち、日本においても、マルチ−マルチクレームが認められなくなる、と言うことであると思われます。以下、このような法改正に至った経緯を、特許庁から出されている資料を参考にして、紹介します。

(1)マルチ−マルチクレームが包含する実質的発明数
 マルチ−マルチクレームは、先に説明したように、複数の発明概念を包括するものです。上記単純なマルチ−マルチクレームである請求項4でさえ、4つの発明を包含します。そして、マルチ−マルチクレームが増えると、実質クレーム数はさらに増加します。

 例えば、先の請求項4の後に、
請求項5:成分Fを更に含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
請求項6:成分Gを更に含むことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の組成物。
という2つのマルチ−マルチクレームがあるとします。

 この請求項5にかかる発明は、請求項1の組成物を、
 ・成分Fを更に含む組成物(請求項1に従属)
 ・成分Cと成分Fとを更に含む組成物(請求項2に従属)
 ・成分Dと成分Fとを更に含む組成物(請求項1+3に従属)
 ・成分Cと成分Dと成分Fとを更に含む組成物(請求項2+3に従属)
 ・成分EとFとを更に含む組成物(請求項1+4に従属)
 ・成分Cと成分Eと成分Fとを更に含む組成物(請求項2+4に従属)
 ・成分Dと成分Eと成分Fとを更に含む組成物(請求項1+3+4に従属)
 ・成分Cと成分Dと成分Eと成分Fとを更に含む組成物(請求項2+3+4に従属)
に限定したものになります(実質クレーム数8)。

 この実質クレーム数8は、請求項5が引用する請求項1〜4の実質請求項数の和に相当します。すなわち、1(請求項1)+1(請求項2)+2(請求項3)+4(請求項4)=8というわけです。そのため、請求項6の実質クレーム数は8(請求項1〜4)+8(請求項5)=16となります。このように、請求項6の実質クレーム数は請求項5の実質クレーム数の2倍になります。そして、先の全てのクレームを引用する請求項7〜nがあれば、請求項7の実質クレーム数は32となり、請求項nの実質クレーム数は2n-5 となります。 つまり、マルチ−マルチクレームが増えると実質クレーム数は巣数関数的に増加することになります。審査の段階では、請求項の記載で包含される発明について審査がなされます。そのためマルチ−マルチクレームがあると、審査官は、クレームの数よりも多くの発明を把握しなければならなくなり審査の負担が増加します。

(2)国際調和
 マルチ−マルチクレームは実質的には複数の発明概念を記載しているため、一つの発明概念しか記載されていない請求項と同じ料金で審査するとなると不公平が生じるなどの考えもあります。実際、マルチ−マルチクレームは米国及び韓国では許されておらず、中国でも例外を除き許されていません(欧州では許されています)。そして、日本からマルチ−マルチクレームの制限のある国への外国出願は全外国出願のうち70%以上を占めています。そのため、国際調和の観点からも、日本においてマルチ−マルチクレームを制限する必要がある、と判断されたようです。

(3)制限の例外について
 今回の法改正にあたり、マルチ−マルチクレームの全てを禁止するのではなく、例えば中国のように例外的にマルチ−マルチクレームを許すべきではないか、との意見が出たそうです。

 しかし、
・米国や韓国は、例外なくマルチ−マルチクレームが禁止されており、日本で特許となったクレームでの海外での権利取得の促進にするという国際調和のメリットが減じられる
・例外を設けるとルールが複雑になる
・例外を設けない方が審査負担がない
などの理由で、制限の例外を設けない方針で法改正が進んでいるようです。

(4)法改正に対する対策
 法改正後では、マルチ−マルチクレームを使用せずにクレームを作成することが必要です。従属クレームを単項従属項又はマルチクレームのみにすることで対応可能ですが、審査請求料及び特許の年金は請求項数に依存するため、費用を考えると無闇にクレーム数を増やすわけにはいきません。そのため法改正後の出願の際には、不必要なクレームを作成せず、権利行使をする際に有効と思われるクレームに絞ってクレーム作成をすることが非常に重要であると考えます。

まとめ

 これから日本特許庁に出願する件の審査のほとんどは法改正後であると思われます。 そのためマルチ−マルチクレームがあると、特許法第36条第6項第4号違反の拒絶理由を受けてしまうと思われます。無駄な拒絶理由を受けるのを避けるために、日本での特許出願は、改正法を含んだ日本の特許法に精通した事務所に依頼するのが最も安全です。 IPOMOEAでは、日本の特許法に精通した特許事務所とのコンタクトを取っていますので、不明な点があれば、お気軽にご連絡ください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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