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欧州で特許を取得するためには?|欧州特許出願の方法とフロー

 例えば、日本、米国、及び中国で特許権を取得しようとする場合、日本国特許庁(JPO)、米国特許商標局(USPTO)、中国特許庁(CNIPA)にそれぞれ特許出願をしなければなりません。一方、例えばフランス、ドイツ、イタリアで特許権を取得しようとする場合は、各国に出願する以外にも、欧州特許庁に出願して欧州特許を取得し、その後で権利を取得したい国を指定国にするという手段を講じることもできます。

目次

欧州特許とは?

    欧州特許とは、欧州特許条約(EPC)に則って出願した発明に対して与えられる欧州広域特許と言えます。欧州特許条約は、1973年10月5日にミュンヘンにおいて作成された、欧州諸国の特許に関する実体的、手続的要件を調和し、出願から特許付与までの手続を欧州特許庁で一括して行うことを目的とする条約です。

 欧州特許条約の加盟国は、2020年1月の時点で、アルバニア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、モナコ、北マケドニア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、セルビア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、サンマリノ、トルコ、イギリスとなっています。

 なお、イギリスは、EUからの離脱を表明しましたが、EPCはEU法の枠組みから独立しているので、EU離脱後もEPCを利用してイギリスに特許出願をすることができます。このEPCに則った出願を欧州特許庁(EPO)に出願し、EPOでの審査によって特許要件を満たしていると判断されれば、欧州特許を取得することができます。

 欧州特許出願フロー

 以下に、欧州特許出願の概略フローを示します。以下の出願では、出願人のアクションを青、欧州特許庁のアクションをオレンジで示しています。

 続いて、主だったアクションを紹介します。

(1) 出願

 願書、明細書、クレーム、及び要約書、並びに必要に応じて図面を提出します。通常は、欧州特許庁の公用語(英語、ドイツ語、フランス語)で出願します。ただし、日本語で出願をすることもできます。この場合、出願から2ヶ月以内に上記公用語のうちの一つでの翻訳文を提出する必要があります。クレーム及び明細書で留意すべき点は、後述します。欧州特許庁へは、パリ条約に基づく優先権を主張して出願をすることができます。PCT経由で出願をすることもできます。

(2) 欧州拡張調査報告(EESR)

 出願後、方式審査が行われます。方式審査に合格すると、欧州拡張調査報告(EESR)が作成されます。EPOに直接出願した場合は、欧州特許庁が欧州拡張調査報告書を作成します。PCT経由でEPOに出願した場合は、国際調査機関が作成した国際調査報告見解書と、欧州特許庁が作成した補充サーチレポートとが出されます。なお、複数の独立クレームの要件を満たしていない場合、規定を満たすクレームを2カ月内に示すことが出願人に求められます。発明の単一性がない場合には、最初のカテゴリーのみについて調査報告が出されます。追加の料金を支払うことにより、全てのクレームの調査報告が得られます。

 EESRでは、クレームの特許性についての見解が示されます。明確性などの方式的な要件違反がある場合も、EESRで通知されます。すなわち、EESRは、他国での最初の拒絶理由通知に対応すると言えます。EESRで否定的な見解が出された場合、出願人は、EESRの公開から6ヶ月以内に応答書を提出する必要があります。一方、EESRで肯定的な見解が出された場合には応答の義務はありません。6ヶ月以内に回答をしない場合には、出願は取り下げたものとみなされます。

(3) 更新手数料及び審査請求

 欧州出願では、出願を維持するための更新手数料を支払わなければなりません。更新手数料は、出願日から3年目及びそれ以降毎年支払います。更新手数料が支払われなかった場合には、出願は取り下げたものとみなされます。支払わなかった場合でも、納付期限から6ヶ月以内であれば、割増料金を支払って納付することができます。

また、公開から6ヶ月以内に審査請求をしなければなりません。審査請求をしない場合、出願は取り下げられたものとみなされます。出願の公開は、出願日(優先権主張を伴う出願の場合は最先の出願日)から18ヶ月経過後に行われます。EESRを受けて本願によって特許を取得できる見込みがない場合には、EESRに回答せず、審査請求をしない、という選択肢を取ることにより、無駄な費用を抑えることができます。

(4) 実体審査、応答、並びに口頭審理

 審査請求をした場合、実体審査が行われます。拒絶理由がある場合には、拒絶理由通知が通知されます。出願人は、4ヶ月以内に回答する必要があります(2ヶ月延長可)。少なくとも1回通知がなされ、その応答によっても特許性がないと判断された場合は、拒絶査定が出される場合があります。ただし、欧州において、1回目の応答後即時拒絶査定となるのは稀のようです。

 欧州特許庁の審査過程では、日本のようにいきなり拒絶査定がなされることがなく、口頭審理の召喚状が発行され、口頭審理において出願人に口頭で特許性を主張する機会を与えてから、拒絶査定がなされます。拒絶査定を受けた場合、審判請求をすることができます。

(5) 許可通知

 拒絶理由通知がない場合、または応答により拒絶理由が解消された場合、規則71(3)の基づく通知、すなわち許可通知が出されます。許可通知では、審査官が特許可能と判断した発明が示されます。この内容に意義がある場合は、反論することができます。一方、審査官の判断に同意する場合、その意を示す(正文同意)と共に、特許料の納付、出願言語以外の公用語でのクレームの翻訳文(例えば、英語で出願した場合は、ドイツ語及びフランス語の翻訳文)、指定国の確定を行います。

(6) 特許査定及び特許公報

 以上の手続きを行うことにより特許査定となり、特許公報が発行されます。EPC加盟国での権利化を目指す場合、3カ国以上であればEPO経由の方が費用的に有利である、と言われています。 

欧州特許出願で留意すべき点

(1)クレーム数

 欧州出願では、クレーム数が15を超えた場合、追加料金が必要となります。そのため、クレーム数を15以下に抑えることが推奨されます。欧州では、「好ましくは」をクレーム記載することができます。そのため、例えば、「好ましくは」を用いて、基礎出願の複数のクレームを一つのクレームにまとめることが考えられます。

 例えば、基礎出願のクレームが以下であったとします。

【請求項1】成分Aと成分Bと成分Cとを含む組成物。
【請求項2】成分Aが成分aであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】成分Bが成分bであることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。

 基礎出願のクレーム数が17であった場合、2個クレームを減らせば、15個以内になります。この場合、例えば、請求項1を、以下のようにすることで、対応できます。

【請求項1】成分A、好ましくは成分aと、成分B、好ましくは成分bと、成分Cとを含む組成物。

(2)1カテゴリー、1独立クレームの原則

 EPC規則43(2)では、1カテゴリーにつき1独立クレームを記載すべしという原則と,1カテゴリーに複数の独立クレームを記載することが許容される例外とが規定されています。すなわち、原則、1カテゴリーにつき、1つの独立クレームしか許されません。一方、例外として、次の項目のいずれかを満たしていれば、1カテゴリーにつき、複数の独立クレームを立てることができます。

(a) 相互に関連する複数の製品
(b) 製品または装置の異なる用途
(c) 特定の問題についての代替的解決策。ただし,これらの代替的解決策を単一のクレームに包含させることが適切でない場合に限る。

 以上を満たさない場合、基礎出願のクレームを結合することで対処できます。

例えば、

【請求項1】ユニットAを具備する自転車。
【請求項2】ユニットBを具備する自転車。
【請求項3】ユニットCを具備する自転車。
である場合、
【請求項1】ユニットAを具備する自転車、又は
     ユニットBを具備する自転車、又は
     ユニットCを具備する自転車。
とすることが考えられます。

 なお、欧州では、別のカテゴリーのクレームを直接引用するクレームは、独立項とみなされます。

(3)補正の制限

 欧州では、当初出願の内容を超える補正はできません。そのため、例えば、当初明細書に記載れていない数値範囲への補正は、許されない可能性が高いです。実施例の数値に基づいて数値範囲を構築した場合も、中間概念一般化と判断され、許されない可能性があります。考えられる数値範囲を出願当初から明細書に具体的に記載しておいたり、考えられる変形例をできるだけ明細書に盛り込んでおいたりすれば、これらの記載に基づいて補正をすることができます。

(4)セルフコリジョン

 欧州では、出願時に未公開の先願もその出願時の技術水準を構成するものとみなされます。注意すべきは、先願と本願との出願人が同一であっても異なっていても、関係ないということです。この点は、中国の抵触出願と同様です。よって、欧州では、自社の出願が後願の出願の特許性に悪影響を与えることが少なくありません。

(5)ミーンズプラスファンクション

 別の記事で、米国ではミーンズプラスファンクションは、明細書に具体的に記載された態様に限定解釈される、と紹介しました。一方、欧州では、クレームの範囲をできるだけ広くするために、ミーンズプラスファンクションが推奨されている、とも言われています。 

まとめ

 このように、EPCを利用することにより、EPC加盟国であれば複数の国における権利を一つの出願で取得することができます。ただし、以上では概略を紹介しましたが、欧州独自のプラクティスがいくつもあります。欧州での権利化の確率を上げるためには、欧州の特許事務所との連携が必須です。

 IPアドバイザリーは海外の特許事務所ともコネクションがあります。欧州特許出願をお考えの際はお気軽にお問い合わせください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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