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米国で特許権を侵害されたら?|権利行使と特許権侵害訴訟の方法

 多くの日本人が使っている「iPhone」。2019年米国において、このiPhoneをめぐり、Qualcomm(クアルコム)がApple(アップル)を相手どり特許権侵害訴訟を起こしたことは、日本でも大きなニュースとなりました。この訴訟は最終的には和解となり、Apple社製のiPhoneにQualcomm社製のチップが搭載されることになりました。

 特許訴訟の他の例として、任天堂は米国で、任天堂SwitchのJoy-Conが特許権を侵害しているとして特許権侵害訴訟を起こされました。任天堂は損害賠償と販売差し止めを求められましたが、最終的には原告が訴えを取り下げたため、任天堂が勝利を得ています。

 このように、米国では、日常の身近な商品に関しても特許権侵害訴訟を起こされています。この記事では、米国で特許権を侵害された際に適切な行動が取れるように、侵害された場合に取り得る行動及び必要なコストについての情報を紹介します。 

目次

米国における特許侵害の現状

 日本及び米国に限らず、特許権侵害はいつでも起こり得る問題です。これは企業が、研究開発を精力的に行っていることに加え、優秀な技術をなんとかして利用したいと考えていることに起因します。実際に米国では、特許権の行使の態様として、特許権侵害訴訟が毎年多く起こされています。以下に、2010年から2019年までの特許権侵害訴訟の件数の推移を示します。 

(出典:Litigation Annual Report)

 2012年から2015年にかけて、パテントトロール(「特許の怪物」、「不実施事業体(NPE)」とも呼ばれます)による侵害訴訟が多く起こされましたが、それ以降、訴訟件数は大幅に減少しています。これは、米国において、パテントトロールによる特許権濫用の脅威が減少しつつあることが原因であると言われています。

 一方で、表立った特許権侵害訴訟に至らなくても、特許権の行使として表には出てこないライセンス契約や和解なども一定数必ず発生しています。これは、米国での特許権の行使は積極的に行われているといえますし、訴訟の数以上の特許権侵害が起きていることを意味します。

 つまり、米国ではいつ特許権が侵害されてもおかしくないのです。 

特許権が侵害されていることがわかったら

 特許権が侵害されていることがわかった場合、例えば、以下のフローで検討を行います。

(A)まず、特許権が侵害されているか否かを確認します。なお、特許権侵害の有無の判断は、あくまで「クレーム」に記載された発明が他者に実施されているか否かに基づいて行います。明細書のみに記載された発明に対しては、特許権侵害を訴えることはできません。

(B)他者が自社の特許権を実施していることを確認できたら、その侵害の程度を検討します。

 米国の特許訴訟において特許権者が逸失利益に基づく損害賠償を請求するには、以下の4つの要件を立証しなければならないとされています。そのため、侵害の程度を十分に検討する必要があります。

(i) 特許製品に対する需要
(ii) 特許を侵害しない代替品の不存在
(iii) 需要を致すための製造及び営業の能力があること
(iv) 特許製品の販売によって得られたであろう額

 なお、「特許製品の販売によって得られたあろう額」については、米国では特許技術によって実現される機能が、顧客がその商品を買おうと思う唯一の理由となっている場合に限られます。つまり、製品全体の価格を基礎としたロイヤリティの算定が認められる傾向にあるようです。このようなケースはあまり多くないので、米国ではより多くの技術に係る特許を取得しておくことが、特許権侵害訴訟における侵害賠償額を引き上げるのに有効であると思われます。

(C)侵害の程度の検討に基づいて、方針の検討をします。具体例を挙げると、「差し止め」を求めるか「ライセンス交渉」を行うか、を決めます。

(a) 差し止め

 日本では、特許権が侵害されていることが認められれば、ほぼ自動的に差し止め請求が肯定されますが、米国では以下の要件を満たす必要があります。

(i) 特許権者が回復不可能な損害を被ったこと
(ii) 制定法に基づく救済が損害を保障するのに不十分であること
(iii) 原告と被告との不利益のバランスに照らして、差し止めが必要とされること
(iv) 差し止めによって公共の利益が害されないこと

 そのため、米国特許訴訟において差し止めが認められることは、日本における訴訟の場合よりもハードルが高いといえます。

(b) ライセンス交渉

 ライセンスには、日本と同様に独占的ライセンスまたは非独占的ライセンスがあります。独占的ライセンスの場合、ライセンスを受けた者(ライセンシ)の行動によって、ライセンスを与えた者(ライセンサ)に悪影響が及ぶ可能性があることに留意が必要です。

 例えば、ライセンシが特許権侵害訴訟を提起した場合、裁判の進行によってはライセンサも強制的に訴訟への参加を要求される場合があります。その場合、訴訟費用を負担しなければならないこともあります(Involuntary Joinder)。したがって、ライセンス交渉も慎重に検討のうえ行う必要があります。

(D)警告書の送付

 特許権侵害に対して決定した方針に従い、侵害している相手に警告書を送付します。この警告書に対してこちらの求めに応じない場合、法的手続き、すなわち特許権侵害訴訟の提起をすることになります。なお、米国の特許権侵害訴訟の象徴的な事項として、故意による特許権侵害の場合は賠償請求額が3倍になることが挙げられます。警告を受けたうえで特許発明を実施していた場合がこの例に該当します。

米国における特許権侵害訴訟の流れ

 法的手続きとしての特許権侵害訴訟は、大まかには以下の流れで行われます。

 以下に、それぞれの手続きについて概説します。

(i) 訴状(Complaint)の提出
 訴訟を提起するには連邦地方裁判所に訴状を提出します。訴状は以下を含まなければいけないと規定されています。

・裁判所が被告に対して管轄権を有する理由の簡潔で平易な記述;
・原告が救済を受ける権利があることを示す請求の簡潔で平易な記述;
・救済の要求

 これ以外の記載要件はありません。

 「管轄権」に関しては、被告が住所を有する地や、実質的または継続的かつ組織的な活動を行った地に認められます。連邦法上の適正手続の観点から管轄を肯定するに足る最小限度の接触が認められる裁判地にも、人的管轄は肯定されます。

(ii) 答弁書(Answers)の提出
 被告は、答弁書において、訴状において行われた原告の主張に対する認否を行います。また、必要に応じて特許無効などの抗弁に関する主張を記載します。

(iii) クレーム解釈に関する手続き(マークマン手続き)
 1996年の連邦最高裁判決(Markman v. Westview Instruments, Inc., 517 U.S. 370(1996))以降、米国での特許権侵害訴訟においては、クレーム解釈に関する手続きを、特許侵害の成立および特許の有効性についての争点と独立して先行して行う実務が確立しましています(マークマン手続き)。

 マークマン手続きでは、原告及び被告の両当事者のそれぞれが、訴訟に関連するクレームに関して解釈に争いのある文言のリストを作り、クレーム解釈の主張を行います。必要に応じて、クレーム解釈のために専門家証人の証言録取が行われることもあります。裁判所は、クレーム解釈に関するヒアリングを経てクレーム解釈に関する裁判所の判断を行います(マークマン決定)。マークマン決定で示されたクレーム解釈は、その後の特許侵害の成立及び特許の有効性についての判断において前提とされます。そのため、マークマン決定後に決着がつく件も少なくありません。

(iv) ディスカバリー(Discovery)手続き
 ディスカバリー手続きは、証拠開示手続きです。米国における特許権侵害訴訟において最も費用の係る手続きといえます。一般に、ディスカバリー手続きはマークマン手続きと並行して行われます。

(v) 略式裁判に関する手続き
 マークマン手続きとディスカバリー手続きが完了した後、多くの事件では略式裁判に関する手続きが行われます。略式裁判とは、重要な事実関係において実質的な争いがない場合に、トライアルを行うことなく裁判所が判断を示す手続きのことです。この後に続くトライアルでは、特許法に明るくない陪審員が特許の侵害の成否及び有効性について判断を示すこととなります。そのため、原告及び被告の双方とも、陪審員が関与する前に有利な判断を裁判所から引き出すことを目的とし、略式裁判の申立てを検討することとなります。略式裁判を経ることにより、特許権侵害訴訟の結果の大筋が決まるといえます。そのため、略式裁判の結果を持って和解や控訴審に進むことがあります。

(vi) トライアル手続き
 以上の手続きを経ても依然として事実関係について争いが残り、和解も成立していない場合にはトライアル手続きに進むこととなります。トライアルは原告及び被告のいずれかが求める限り陪審によって行われます。なお、米国では、トライアルに進む割合は全体の数%のみで、残りは、その前の段階において和解が成立して訴訟が終了すると言われています。 

訴訟にかかる費用

 米国における特許権侵害訴訟には、多額の費用がかかります。

 先ほど述べたように、米国における特許権侵害訴訟において費用が一番かかるのはディスカバリー手続きであると言われています。これは、ディスカバリー手続きにおいて相手方から求められた文書は全て提出しなければならず、その分析検討に多くの労力が必要となるからです。特許権侵害訴訟における時間の大半を占めるのもこのディスカバリー手続きであると言われ、約2年かかります。そして、特許権侵害訴訟にかかる費用は、約400万ドル(4億円!!)と言われています。

 このように、特許権侵害訴訟は多額の費用がかかりますが、米国における特許権侵害訴訟では弁護士費用の賠償も認められています。故意侵害が認められた場合には3倍賠償も認められるため、勝訴すれば弁護士費用の負担なしで多額の賠償金を得ることができます。 

まとめ

 このように、米国での特許権侵害訴訟には多額の費用がかかってしまいますが、勝訴した場合にはそれを遥かに上回る賠償金を得ることができます。ただし、訴訟に発展する前に将来を見据えて和解やライセンス交渉も当然ながら検討すべきです反対に、米国で特許権を侵害してしまった場合、多額の賠償金を支払わなければいけなくなる恐れがあります。

 IPアドバイザリーでは、米国のローファームとも綿密にコンタクトをとることができます。米国での特許権侵害訴訟に関してご興味のある方はお気軽にご連絡をいただけると幸いです。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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