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特許の国際出願における「サーチレポート」の読み方

目次

国際出願におけるサーチレポートとは

 以下に、国際出願におけるサーチレポートについて説明します。なお、以下の説明は特許庁から発行されているWebサイト(https://www.jpo.go.jp/system/patent/pct/chosa-shinsa/document/index/jitsumu_shiryo.pdf)に基づいています。また、以下では特許協力条約を単に「条約」と示します。

 まず国際出願を行うと、その国際出願は国際調査の対象となります[条約第15条(1)]。国際調査は国際調査期間(International Searching Authority:ISA)が行います[条約第16条(1)]。国際調査は、関連ある先行技術を発見することを目的とします[条約第15条(2)]。 国際調査を行うために、調査対象の発明の技術分野の検討が行われます。次いで、発明の単一性の要件について検討されます。発明の単一性が満たされていないと判断された場合、出願人は追加手数料の支払が求められます[条約第17条(3)(a)]。国際調査機関は、国際出願のうち、請求の範囲に最初に記載されている発明(「主発明」)に係る部分と、必要な追加手数料が所定の期間内に支払われた場合には追加手数料が支払われた発明に係る部分について、国際調査が行われます。そして、国際調査の対象となる発明について先行技術調査が行われます。条約第15条(4)では、「可能な限り多くの関連のある先行技術を発見するよう努めるものとし、 いかなる場合にも、規則に定める資料を調査する。」と規定されています。この先行技術調査の結果として、国際調査報告書(International Search Report:ISR)が作成されます。以下にISRの例を示します。

 ISRでは、上に示した例のように、調査の結果見つかった先行技術文献が示されます。各文献には、カテゴリー及び関連する請求項の番号が記載されています。ここで、文献の主なカテゴリーについて説明します。

 X文献:当該文献のみで、発明の新規性又は進歩性がないと考えられるものです。すなわち、非常に近い文献です。

 Y文献:当該文献と他の文献との自明な組み合わせによって、発明の進歩性がないと考えられるものです。すなわち、本発明とは異なる発明ではありますが、本発明の進歩性を否定し得る発明が記載された文献です。

 A文献:特に関連のある文献ではなく、一般的な技術水準を示す文献です。

 E文献:国際出願日前の出願又は特許であるが、国際出願日以後に公表された文献です。

 P文献:国際出願日前で、かつ優先権の主張の基礎となる出願の日の後に公表された文献です。

 このカテゴリー分けされた文献の情報が、当該サーチレポートの情報として非常に有用といえます。項目3において、詳細に説明します。

見解書について

 国際調査報告書の作成と同時に国際調査報告の見解書が作成されます。この見解書では、国際調査した各請求項についての「新規性」、「進歩性」及び「産業上の利用可能性」の有無が示されています。例えば、以下の通りです。

 新規性又は進歩性を肯定する場合には、根拠となる先行技術文献の内容が具体的に示されます。反対に、新規性又は進歩性を否定する場合は根拠となる先行技術文献との関係が言及され、否定する理由が具体的に示されます。 

サーチレポートの利用

(1)新規性が否定された場合
 ISRで新規性を否定するX文献が挙げられた場合、そのまま各国移行手続きを行っても新規性が否定される可能性が高いです。

 新規性が否定された場合に、取り得る出願人の行為としては、以下の行為が挙げられます。
(a)国際段階において、19条補正を行う
 ISRを受領すると、出願人は、1回のみですが、クレームを補正することができます(条約19条)。この補正により新規性の確保を図ることができます。

(b)そのまま各国移行をし、各国で適切な時期に補正をする
 国ごとに異なる権利範囲での権利化を図る場合には、各国移行後に新規性を確保するための補正をすることが考えられます。

(c)国際予備審査の請求を行うのと同時に、34条補正を行う
 ISRの発送から3ヶ月又は優先日から22ヶ月までに、国際予備審査請求を行うことができます(条約31条)。国際予備審査ではISRよりも深く特許性が判断されるため、各国移行するクレームを決定する上でより適切な情報を得ることができます。そして、国際予備審査請求と同時に、クレーム、明細書及び図面を補正することができます(条約34条(2)(b))。この34条補正により、新規性の確保を図ることができます。

(d)各国移行を行わない
 新規性を確保する補正案がない、又は新規性を有するように補正すると権利範囲が狭すぎるなどの場合、各国移行を行わないという判断をすることも考えられます。

(2)進歩性が否定された場合
 進歩性は新規性とは違い、国によって判断が異なる場合があります。そのため、進歩性が否定された場合であってもそのまま各国移行する、という選択肢もあります。ただ、進歩性が肯定されている請求項がある場合であって、そのクレームの発明の範囲で権利範囲が十分である場合には19条補正又は34条補正を行い、国際段階で進歩性のある発明に限定しておくのも各国での費用を抑えることができるため、一つの方策であると考えられます。

(3)E文献が挙げられた場合
 ISRでE文献が挙げられた場合、出願時未公開の先願の取り扱いが国により異なるため、留意が必要です。まず、当該E文献が出願人同一又は発明者同一である場合、日本において当該文献は特許法第29条の2(拡大先願)での先行技術文献に該当しません。米国でも、当該E文献が出願人同一又は発明者同一である場合には当該文献は先行技術文献とはなりません。一方、中国及び欧州では、当該E文献が出願人同一又は発明者同一であっても先行技術文献となってしまいます。出願時未公開の先願の詳細については、こちら(※「拡大先願による拒絶理由通知とその対処方法について実践的に解説」の記事のリンクを貼ってください)をご覧ください。なお、E文献が出願人同一でも発明者同一でもない場合、日本でも29条の2にも基づいて拒絶される可能性があることに留意が必要です。

(4)P文献が挙げられた場合
 P文献が挙げられた場合、国際出願に係る発明の特徴の中で、特許性が認めら得る特別な技術的特徴が、(a)優先権を主張する基礎となる出願に記載されているものであるか、又は(b)国際出願時に追加した内容であるかによって対応が異なります。(a)の場合、優先権が効きますので、P文献によって当該発明の特許性が否定される可能性は低いといえます。一方、(b)の場合、優先権が効かないためP文献によって当該発明の特許性が否定される可能性があります。この場合、優先権を主張する基礎となる出願に記載された内容に基づいて、P文献の発明に対して新規性及び進歩性があるように補正をすることが有効であると考えます。 

まとめ

 このように、国際調査報告、及び国際報告の見解書には各国移行の際のクレームを決定する材料となる情報が多く含まれています。特にE文献が挙げられた場合、日米と中欧とでクレームを変える必要が生じることがあります。以上に簡単にまとめはしましたが、案件ごとに国際調査報告を受け取った後の方策は異なります。

 弊社IPアドバイザリーが連携している特許事務所は国際出願及び各国移行を数多く経験しています。国際出願でお悩みの場合はお気軽に弊社にお問い合わせください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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