国際化が進む今日、特許出願も、一つの国だけでなく複数の国に出願することも少なくありません。特に重要な技術については、5大特許庁(日米欧中韓)を筆頭に複数の国に出願する場合も多いと思われます。情報化及びグローバリゼーションが進んでいるため、各国特許庁は、審査結果を共有しており、他国の審査結果を参考にして審査することもあります。そのため、出願人も、他国の審査結果を参考にすることで、効率的に権利化を進めることができます。
この記事では、パテントファミリーの概要と、パテントファミリーの調べ方について紹介します。
パテントファミリーとは?
さて、何をもってパテントファミリーというのでしょうか?
早速回答を言うと、パテントファミリーとは、ある国へ出願された出願と、その出願の優先権を主張して、他の国へ出願された親子・兄弟関係のような出願とを含んだグループのことを言います。パテントファミリーの具体例を以下に示します。
上図において、青矢印は、最先の出願である「日本出願」の優先権を主張したことを示しています。上記は、パリルートで外国出願をした場合の例ですが、PCTルートで外国出願をした場合には、PCT出願自体もパテントファミリーに含まれます。例えば、国際調査報告(ISR)や、欧州拡張調査報告(EESR)では、引例一覧に、引例のパテントファミリーが示されています。以下に、ある出願の国際調査報告の引例一覧の部分を示します。
パテントファミリーを調べるメリット
パテントファミリーの中で最も審査が早い出願が基礎出願であるとは限りません。特に、日本出願は比較的審査が遅いことが多く(早期審査請求をしている場合は除く)、欧州出願などの方が先に最初の調査報告を受け取ることがあります。
各国特許庁の審査は独立して行われますが、今日では他国の審査、特に先行技術調査を利用して審査を促進しようとする傾向にあります。具体的な運用として、特許審査に関連する情報(各国・地域における手続や審査の状況、各種書類のデータ等のいわゆる「ドシエ情報」)を各庁で共有するためのシステムが構築されています。各区特許庁はこのシステムを利用して審査を行っています。さらに米国出願では、情報開示義務により他国の審査結果を提出して、審査官はその内容を検討します。
つまり、パテントファミリーの一つの出願に対して挙げられた引例が、他国の審査において挙げられる可能性があります。同じ引例が挙げられたことを知らずに、同じ引例に対する進歩性を主張するための対策を最初から検討するのは、同じことを繰り返してしまうため時間の無駄です。それだけに留まらず、同じ引例に対する対応としての異なる補正案を作成することは、国毎の特許クレームが異なることにつながり、好ましくはありません(引例が異なる場合には必要に応じて特許クレームが異なることがありますが)。
パテントファミリーを調べることで、このような事態を防ぐことができます。他の言い方をすると、パテントファミリーの審査経過を知ることは、例えば、以下のメリットがあります。
(1) アクション対応の際に、他国の審査状況を参考にして、権利化の促進を図ることができる;
(2) 許可クレームをできる限り全ての国で統一することができる
具体的な調べ方
さて、パテントファミリーを調べる場合には、具体的にはどのようにすればいいのでしょうか?以下に3つの例を示します。
(1)J-PlatPat
日本の方であれば、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を利用するのが最も手っ取り早いかと思われます。URLは、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/です。
J-PlatPatの「特許・実用新案」にタブから、「特許・実用新案番号紹介/OPD」を選択し、クリックします。クリックすると、以下のページが現れます。
一番左の「発行国・地域/発行機関」において、プルダウンリストより、調べたい出願の出願国を選択します(日本であれば「日本(JP)」)。次いで、真ん中のプルダウンリストから「特許出願番号」を選択します。公開番号等でも構いません。最後に、一番右の欄に、出願番号を記入します。ここまで入力したら、ページ下の「照会」をクリックします。
例として、「特願2017−12345」を「照会」すると、以下の結果が得られます。
次に、右側の「各種機能」の欄の「OPD」をクリックします。「OPD」は、「ワンポータブルドシエ」であり、文献番号から世界各国の特許庁が保有する出願・審査関連情報(ドシエ情報)を照会できる機能です。「OPD」をクリックすると、以下のページが現れます。
このページの「US」欄に記載されているのが、パテントファミリーの米国出願です。中国や欧州への出願がある場合には、「CN」「EP」の欄が登場します。米国出願の審査結果を調べたい場合は、「書類一覧 開く」をクリックします。クリックすると、以下のページが現れます。
このページから、米国出願の審査経緯を確認することができます。
このように、J-PlatPatはパテントファミリーを調べるのに非常に便利なのですが、出願国として選択できるのが、日米欧中韓の5大特許庁、WIPO(PCT)、イギリス、ドイツ、旧東ドイツ、フランス、スイス、カナダのみです。日本出願のパテントファミリーを調べる場合には特に問題ありませんが、例えばインドやブラジル出願のパテントファミリーを調べる場合には、利用することができません。そのような場合には欧州特許庁が提供しているEspacenetを利用することが便利です。
(2)Espacenet
EspacenetのURLは、https://worldwide.espacenet.com/?locale=jp_ep(日本語ページ)です。
このページのSmartSearchの欄に、調べたい出願番号を入力します。以下では、ブラジル出願番号2012―1122446のパテントファミリーを調べる例を示します。上記番号(BR20121122446)を入力し、検索を押すと、以下のページになります。
このページの発明の名称をクリックすると、調べたいブラジル出願の情報が表示されます。
ここで、「INPADOC Patent Family」をクリックすると、このブラジル出願のパテントファミリーが確認できます。ブラジル出願では、引用文献がなかったようで、「Cited documents」は表示されていません。また、言語を選択してから「Patent translate」をクリックすると、機械翻訳文を得ることができます。
さて、このブラジル出願のパテントファミリーであるEP出願の詳細ページを以下に示します。
EP出願では、審査の過程で文献が引用されたため、「Cited documents」を選択でき、ここをクリックすることで、文献一覧を確認することができます。そして、「Resister」をクリックし、その次のページ(以下に示します)の「All documents」をクリックすることにより、審査経緯を確認することができます。
このようにして、Espacenetにより、パテントファミリーの審査結果を詳細に調べることができます。
(3)WIPO
WIPOのページでも、パテントファミリーを調べることができます。URLはhttps://www.wipo.int/portal/en/index.htmlです。
さて、このページの「PATENTSCOPE」をクリックします。
次に、「Access the PATENTSCOPE database」をクリックします(このリンクをクリックすることで、ダイレクトでアクセスできます)。その後、「Field」で「Any Field」を選択し、「Search terms」の欄に、調べたい出願の出願番号又は公開番号を記入します。
現れたページの「Patent Family」をクリックすることで、パテントファミリーの一覧を確認することができます。
このように、WIPOが提供しているパテントファミリーの一覧は、国ごとの出願日の違いが一目でわかるようになっています。また、Espacenetと同様に、「Documents」をクリックすれば、審査経過を調べることができます。
まとめ
このように、パテントファミリーの審査経過を把握することは、その国の出願の権利化の効率化、及び可能な限り同じクレームでの権利化を可能にします。そして、パテントファミリーの調べ方は、いろいろありますが、日本の方が簡易に検索するにはJ-patpat、主要国以外の出願のパテントファミリーを調べたい場合にはEspacenetと、その目的に合わせて利用することが良いと思われます。
以上では概略を紹介しましたが、より詳しい調べ方をお知りになりたい場合はIPアドバイザリーまでお気軽にご連絡ください。