SenseTime 特許ポートフォリオのすべて
はじめに
人工知能(AI)は「新たな電気」とみなされ、ほぼすべての産業分野において創造的破壊者になる可能性を秘めています。AI 技術を大まかに分類すると主に、音声認識、コンピュータ ビジョン、自然言語処理といった 3 つの下位分野で表すことができます。
これらの下位分野からは、過去 5 年間に非常に多くの特許が出願されており、なかでもコンピュータ ビジョン分野からの出願数は群を抜いています。世界的にみると、2011~2015 年に約 1 万 9,000 件の特許が出願され、その件数は 2016~2020 年で大幅に増加して 115 万件を超えました。こうした特許出願件数の驚異的な増加の主な理由として、高速データ ネットワークの世界的な普及に伴ってコンピュータ ビジョン アプリケーションが消費者に広く利用されるようになったことが挙げられます。
図 1 に示すような AI 事業を展開している企業のうち、SenseTime はキープレーヤーとして巧緻な方法で道を切り開いてきました。というのも、SenseTime はエンドユーザー向けコンピュータ ビジョン アプリケーションの開発に大きく貢献したからです。
SenseTime の事業分野であるコンピュータ ビジョンとは、AI 技術の 1 つであり、コンピュータやシステムがデジタル画像などの視覚入力からアクショナブル インフォメーションを導き出すことを可能にする技術です。このグローバル AI リーディング カンパニーは 2014 年の設立以来、コンピュータ ビジョン分野での強みを活かし、数々のソリューションに対する取り組みを続けてきました。SenseTime は主に次の分野で開発を行っています。
a) 企業や個人が AI ベースのソリューションを開発できるようにするための AI インフラストラクチャ
b) コンテンツの生成や質向上など、現代特有の課題を解決するための画像解析と顔認識
c) インテリジェントな自動車技術
d) ゲームと拡張現実(AR)
こうした分野における課題に対処するために、SenseTime は堅実にイノベーションを続けており、これまでに大規模な特許ポートフォリオ(★1)を形成しています。SenseTime は、コンピュータ ビジョン技術をさまざまな分野に適用できることを理解しており、それに応じて戦略的な特許出願を行ってきました。
★1:「特許ポートフォリオ」とは、企業などが出願・保有している特許網を指す。
このレポートでは、各種分析ツールを駆使して SenseTime の特許ポートフォリオをさまざまな観点から分析し、SenseTime の AI 技術における重点分野、知財戦略、市場における優位性、今後の発展動向などを詳しく紹介します。
SenseTime の強力な特許ポートフォリオと技術的範囲
このセクションでは、入手可能なデータに基づいて SenseTime の特許ポートフォリオを分析し、その技術的範囲を詳しく説明します。
a) 強力な特許ポートフォリオ
SenseTime のポートフォリオは、4,725 件の有効な公開特許から構成されています。そのうち748 件の特許が登録されており、3,941 件が審査中です。
業界に参入してからまだ 7 年しか経っていない企業にとって、こうした強力なポートフォリオの形成は非常に印象的であり、これは組織内で育まれている革新的文化の現れとも言えるのではないでしょうか。過去 3 年間に出願された特許の件数を見ると、現時点での登録率(16%)は低く感じるかもしれませんが、この数字は今後 2~3 年の間に急増することが見込まれます。
次の図 2 は、SenseTime の驚くべき成長を裏付ける強力なポートフォリオを示しています。
b) SenseTime の特許出願件数
コンピュータ ビジョンは、Covid-19(新型コロナウイルス感染症)危機のさなかで大きな革新を遂げた分野の 1 つです。また、政府や行政が Covid-19 に対する各種対策を適切に実施することに寄与した分野でもあります。多くの企業が損失を被っていたなかで、結果的にこの市場セグメントの企業は成長を維持することができました。
次の図 3 は、過去 10 年にわたる SenseTime の特許出願推移を示しています。このグラフからはイノベーションの大きな促進が見てとれます。SenseTime の特許出願件数は、2018 年以降、特にパンデミックの際に急増しました。2021 年の特許出願件数の落ち込みは、公開時期のタイムラグ(18か月)によるものです。
c) SenseTime の出願国の分布
SenseTime の特許の大部分は中国で出願されており、海外での出願はわずか数件です。中国にルーツを持つ SenseTime は、有効な特許出願全体のほぼ 99% について中国を最初の出願国としています。
次に示す図 4 は、特許出願国を件数の多い順に並べたグラフです。SenseTime は、中国での特許取得を第一に優先していますが、他の国でも少数の特許を保有しています。
d) SenseTime の特許技術分類
次に示す図 5 は、特許出願された技術分野のトップ 10 を示しています。この技術分野は共同特許分類(CPC)(★2)に基づいて抽出しました。このグラフからは、SenseTime の特許ポートフォリオの指標を知ることができます。
ここではっきりとわかるのは、コア産業セクターに対する徹底した特許出願戦略です。このグラフには、特許出願のほぼ 99% がコア産業セクターに集中しているという、特許ポートフォリオの本質が現れています。SenseTime のような規模のポートフォリオでは、コアビジネス戦略に沿った出願が多く、非コア技術や周辺技術に関する特許を容易に把握することができます。
★2:「共同特許分類(Cooperative Patent Classification、CPC)」とは、欧州特許庁(EPO)と米国特許商標庁(USPTO)で共通に使われる特許分類体系のことである。CPC の定義については付録 A を参照。
e) SenseTime の技術的範囲
次に示す図 6 は、SenseTime のポートフォリオでターゲットとなっているコア技術分類を細分化した技術分類の分布を示しています。これらの技術分類は、このレポートの冒頭で述べた市場セグメントの分布と一致しています。つまり主な技術分野には、画像解析・顔認識、自動車技術、拡張現実、ゲーム、通信が含まれます。
SenseTime の特許ポートフォリオの評価と世界との比較
このセクションでは、SenseTime の特許ポートフォリオをさらに詳しく分析し、コンピュータ ビジョン分野における世界の特許取得企業のうち、SenseTime の地位を評価してみます。
a) 世界のコンピュータ ビジョン特許出願件数
AI 分野からの特許出願は、2015 年までは低調であったものの、2016~2020 年にかけて急激に増加しています。こうした傾向は、同じ期間における SenseTime の出願推移を示した図 3 でも見ることができます。
b) 世界のコンピュータ ビジョン特許取得企業ランキング
次に示す図 8 は、コンピュータ ビジョン特許を取得した企業の分布を示しています。ソニーが 1,981 件の特許を取得してトップに立ち、サムスンが 1,531 件で 2 位につけています。SenseTime は、このなかで6位となっています。多くの企業が最初の出願国として米国を選択していますが、SenseTime は外国よりも自国での出願を優先しており、特許権付与のほとんどは中国で行われています。
c) SenseTime の特許ポートフォリオ評価ランキング
独自のランキングツールを利用して、SenseTime の 748 件の登録特許を評価しました。評価項目としては、被引用特許(★3)、特許審査期間、ファミリー特許数(★4)、特許の文章の長さなどが挙げられます。このように得られたランキングリストからトップ 10 に入った特許を図 9 に示します。上位 10 件のうち、中国で登録された特許が 9 件で、米国で登録された特許が 1 件です。
★3:「被引用特許」とは他の特許から引用された特許を指し、つまり、被引用回数が多い特許は多くの特許に影響を及ぼしているということであり、重要な特許であるといわれている。
★4:「特許ファミリー」とは、1 つの特許をもとに出願された親子のような特許のグループを指す。
d) 世界のコンピュータ ビジョン登録特許評価ランキング
続いて、コンピュータ ビジョン分野において世界で登録された特許を評価し、競合他社に対する SenseTime 特許の順位を分析しました。図 10 は、コンピュータ ビジョン分野において世界で登録された特許約 53,000 件のトップ 10 を示しています。
e) 世界の登録特許評価ランキングにおける SenseTime 特許の順位
驚くべきことに、SenseTime の特許は、世界の登録特許評価ランキングトップ 100 にランクインしていませんでした。
そこで次の図 11 をご覧ください。この表は、SenseTime のトップ 10 の登録特許とそれらの世界ランキング中の順位を示しています。SenseTime で第 1 位の特許は、世界のコンピュータ ビジョン登録特許の中で 248 位です。SenseTime の特許が世界ランキングのなかで低い順位にあるのは、自国での特許取得が優先されているためと考えられます。
まとめ
このように各種データと特許件数を視覚化してみると、AI 分野は現在のその成長率にもかかわらず、まだ初期段階を過ぎておらず、今後 6~13 年(特許ポートフォリオが、その平均年齢に基づいて成熟するのに要する平均年数)で飛躍的な進歩を遂げるであろうことが明らかとなりました。この間にも、コンピュータ ビジョン ソリューションを提供する多くのプレーヤーがこの分野に参入し、これらの特許化されたイノベーションをエンドユーザーに届けることになるでしょう。
こうして予測された世界的な指標から、SenseTime にコンピュータ ビジョンの目標をグローバルに達成するためのチャンスが到来していることは明白です。