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ビジネスモデル特許を正しく理解して知財戦略に活用する方法

 現在、ユニクロでお洋服を購入する際、読み取り装置の所定のエリアに商品を収めるだけで、バーコードによる読み込みなしに会計ができますよね?筆者はこのセルフレジのシステムに初めて遭遇した際、驚きを隠せませんでした!さて、このような読み取り装置には特許があることはご存知ですか?実際、ユニクロは、読み取り装置の特許権者から特許権侵害行為差し止めの仮処分が申し立てられました。ユニクロは特許無効の審判を請求して対抗しましたが、全部無効にすることは叶いませんでした。

 このようなセルフレジのように、我々の身近にあるビジネスに関するシステムには特許が取られていることが度々あります。ビジネス方法に関する特許を、一般に「ビジネスモデル特許」と言います。1998年に「ビジネス方法であるからといって直ちに特許にならないとは言えない」という判示が米国の最高裁から出されたことを潮目に、米国、そして日本でもビジネスモデル特許が注目を浴びるようになりました。

 この記事では、ビジネスモデル特許について紹介すると共に、各国でのビジネスモデル特許の取り扱いを説明します。 

目次

ビジネスモデル特許とは?

 まず、ビジネスモデル特許は「発明」です。

 日本の特許法第2条第1項では、
「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」
と規定されています。

 そのため、単なるビジネス方法の発想(ビジネスアイデア含む)やビジネスを行うその方法自体では、自然法則を利用したものではないためビジネスモデル特許を得ることはできません。

 ビジネスモデル特許が話題になり始めたとき、弁理士に対して「こんなビジネスモデルがあるのですが特許を取れますか?」という問い合わせが多くあったと言われています。

 この問いに対する典型的な回答の一つとしては、
 ご提案のビジネス方法を実現するのに利用される、具体的なソフトウェアやコンピュータシステムであれば、特許を取れるかもしれません。
という回答が挙げられます(※あくまで日本です)。

 実際、先のセルフレジの特許(「読取装置及び情報提供システム」;特許第6469758号など)アマゾンの購入システム(「アイテムを注文するためのクライアント・システムにおける方法及びアイテムの注文を受け付けるサーバ・システムにおける方法」;特許第4959817号)や、いきなりステーキ!のステーキの提供システム(「ステーキの提供システム」特許第5946491号)などが、日本においてビジネスモデル特許として権利化されています。

 すなわち、ビジネスモデル特許とは、そのビジネスモデルを実現するための技術的工夫に関する発明に対して与えられる特許権である、ということができます。

 より具体的な定義の例として、特許庁 審査第四部 審査調査室による報告(https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/biz_pat.html#anchor2-2)では、ビジネス関連発明が、
 ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明
であると定義されています(特許庁の公式な定義ではないと断りはあります)。

 最近では特に、ビッグデータ、IoT(internet of things;物のインターネット)、AI(artificial intelligence;人工知能)と紐づけられた発明が多くなっているようです。

 IoT関連のビジネスモデルの例を以下に示します(参考:上記特許庁報告)。 

 上記モデルは、センサなどにより情報を取得し、取得した情報を通信し、伝えられた情報を蓄積(例えば、取得したデータのビックデータ化)し、取得した情報を蓄積した情報に基づいて分析(例えば、AIなどにより分析)し、分析結果に基づいて情報を利用及び活用するモデルです。

 上記モデルでは、利用及び活用の技術又はビジネスモデルのシステム全体が、ビジネス関連発明として保護が可能である場合があるそうです。 

日本でのビジネスモデル特許の動向

 このようなビジネス関連発明の出願件数は、日本においては2000年の出願ブームの後、2012年まで減少傾向にありました。しかし、AIやIoTの技術の目覚ましい進歩に基づく様々な分野でのICTの利用・活用が活発になったことを受け、2012年以降、ビジネス関連発明の出願件数は増加しています。

 そして、特許査定率は、年々増加しており、2000年から2004年までは、10%、13%、14%、19%、27%と、30%を割っていましたが、2008年には54%と5割を超え、2012年から2016年までは65%以上の特許査定率を達成しています。

 出願の分野としては以下の分野が出願件数の上位を占めています(2019年のデータ)。
(1)サービス業一般(宿泊業、飲食業、不動産業、運輸業、通信業等)
(2)EC・マーケティング(電子商取引、オークション、マーケット予測、オンライン広告等)
(3)管理・経営(社内業務システム、生産管理、在庫管理、プロジェクト管理、人員配置等)

 これらに次ぐのが、金融関連のビジネス関連発明の出願となっています。

 さて、日本では、特許性は、
(1) 発明であること
(2) 産業上の利用可能性があること
(3) 新規性及び進歩性があること
(4) 先願であること

などの要件を満たしているかで判断されます。ビジネスモデル特許も他の発明と同様に判断されます。特に進歩性の判断では、従来人間が行っていた作業を単にコンピュータによる処理に置き換えただけの発明は、進歩性が認められない可能性が高いようです。 

各国におけるビジネスモデル特許

次いで、世界に目を向けてみます。以下に、2011年から2018年までの5大特許庁及びWIPOに対するビジネスモデル関連の出願件数の推移を示します。 

 上図から明らかなように、中国の出願件数が、急増しており、2018年では世界一位の件数となっています。一方、米国は2014年を境に出願数が減少しています。そして、欧州は安定的に低い出願件数となっています。これらの動向を以下に示します。

(1)アメリカ
 2013年のAlice判決を受け、101条に基づく特許適格性の判断が厳格化され、ソフトウェア関連発明は特許的適格性がないと判断されるものが多くなりました(詳しくはこちら)。その影響もあり、ビジネスモデル関連発明も出願件数が減っています。

(2)中国
 中国の高い経済成長を受け、ビジネスモデル特許の出願も増えているものと思われます。中国では従来、AIやビジネスモデルに関連する発明がどのような基準で審査されるか明確でありませんでしたが、2020年に施行された審査指南の改正でこの点について明確化がなされました。

 改正後の審査指南では、概して以下のように規定されています
・請求項が、抽象的アイデア又は単なるビジネス方法に関するものであり、かつ如何なる技術的特徴を含んでいない場合、専利権を付与すべきでない。
・請求項が、抽象的アイデア又は単なるビジネス方法以外に、技術的特徴を含んでいる場合には、専利権を獲得する可能性を排除すべきでない。
・請求項が技術的解決しようとする技術的課題に対し、自然法則を利用した技術的手段を採用し、かつこれにより、自然法則に適合した 技術的効果を獲得したと記載されている場合、当該請求項の解決方案は、専利法第二条第二項に記載する技術的解決手段に該当する。

 すなわち、日本と同じようにビジネスアイデアを実現するための具体的な手段が請求項に記載されている必要があります。

(3)韓国
 韓国では、特許庁が、コンピュータ、通信、インターネット技術に基づいて、ビジネス方法のアイデアが産業上利用できる具体的な手段として記載されている発明であれば、特許を受けることができる発明に該当する、としているようです。

(4)欧州
 欧州ではビジネスモデル特許に対する進歩性の判断が厳しく、その影響からビジネスモデル関連発明の出願数が少ないと思われます。

 ただし、欧州の審査ガイドライン第G部第II章第3.5.3節には、

・クレームされた主題が、ビジネス方法の少なくとも幾つかのステップを実行するための、コンピュータ、コンピュータネットワーク、またはその他のプログラム可能な装置などの技術的手段を特定している場合、52条(2)(c)及び(3)に基づく特許可能性から除外されない。

と規定されており、ビジネスモデルに関する発明は、少なくとも特許可能な発明であることは明らかです。 

まとめ

 どの国でも、ビジネスのアイデア自体は、特許可能なものではなく、そのアイデアを実現するための具体的な技術手段に対して、特許権が付与されます。ただし、その判断は、国によって異なりますので、留意が必要です。

 IPアドバイザリーは、日本を始め各国の特許事務所とつながりがあります。現地のプラクティスに精通した弁理士に相談をすることができます。ビジネスモデル特許に関するより詳細がお知りなりたい場合は、ぜひご連絡ください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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