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特許出願の取り下げおよび放棄、ならびに特許権の放棄とは?

 2020年から今日にわたって起きている世界的なコロナ・パンデミック。そのような状況下、2021年6月に開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、新型コロナウイルスワクチンの「特許権の一時放棄」の是非が議題として挙げられました。ここでの「特許権の放棄」の要請は、製薬会社に新型コロナウイルスワクチンに関する特許権の行使を放棄させ、ワクチンの特許の実施権を有する企業でなくても生産を行うことができるようにして、世界各国で自国でのワクチン生産を促すためであると思われます。

 一方で、一般的な「特許権の放棄」には、様々な側面があります。また、特許権だけでなく、「特許出願」に関しても放棄があり、更に、放棄とは別の手続きとして「取り下げ」もあります。

 この記事では、特許出願の放棄及び取り下げ、特許権の放棄について、紹介します。 

目次

特許出願の取り下げ

 日本においては、出願した特許出願は、1年6ヶ月経過後に、公開されます(特許法第64条)。公開になるのを防ぐためには、公開前に出願を「取り下げる」必要があります。特許出願の取り下げは、特許法第38条の5で以下のように規定されています。

 特許出願人は、その特許出願について仮専用実施権を有する者があるときは、その承諾を得た場合に限り、その特許出願を放棄し、又は取り下げることができる。

 出願の取り下げには、出願取下書を特許庁に提出することが必要です。公開前に出願を取り下げる場合は、特許庁が公開の準備をする前に取り下げ書を提出する必要があります。具体的には、出願から1年4ヶ月以内に取り下げ書を提出することが安全であると言われています。なお、1年4か月を過ぎて取り下げを行う際は、一般に、特許庁の方式審査課に連絡して公開中止を望む旨を伝えることが勧められています。出願の公開予定は、特許庁のHP(https://www.jpo.go.jp/system/laws/koho/hakkoyote/hakko.html)を確認するか、特許庁に直接問い合わせる(普及支援課  公報企画班 内線2305番)ことで、確認をすることができます。

 公開前取り下げには、例えば以下の利用方法があります。
(1)「公開損」の防止
(2)再出願の手段
(3)ノウハウ管理

(1)「公開損」の防止
 特許出願は、その出願が特許査定になってもならなくても公開されます。例えば、早期審査請求をして新規性及び進歩性を否定する先行技術文献が存在することを知った場合、当該出願を取り下げることによって権利化ができず公開した分だけ損をする、という事態を防ぐことができます。

(2)再出願の手段
 特許法第39条第5項では、
 特許出願若しくは実用新案登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、又は特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その特許出願又は実用新案登録出願は、第一項から前項までの規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。ただし、その特許出願について第二項後段又は前項後段の規定に該当することにより拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したときは、この限りでない。
と規定されています。

 この規定によると、取り下げた出願には先願の地位は残されません。そのため、出願後に出願内容に重大な欠陥があることがわかった場合、当該出願を取り下げて修正した内容で新たに出願をすることもできます。

(3)ノウハウ管理
 出願後、当該出願に記載した技術が、公開すべきでない技術であることがわかった場合、出願の取り下げをすることで、当該技術を公開せず自社のノウハウとして管理することができます。また、国内優先権主張を伴う出願やPCT出願の際に日本を指定国に含めた場合は、先の出願は、みなし取り下げされます(特許法第42条)。このような手続きも取り下げの1種といえます。 

特許出願の放棄

 特許出願の「取り下げ」とは別の手続きとして、「放棄」という手続きがあります。特許出願の放棄は、取り下げと共に特許法第38条の5で規定されています。実際には、出願放棄書を特許庁に提出することで特許出願の放棄をすることができます。

(1)公開前の放棄
 なお、先に示した特許法第39条第5項では、取り下げでも放棄でも、当該特許出願は初めからなかったものとみなされる旨が規定されています。したがって、公開前の「取り下げ」と公開前の「放棄」とは、現在、実質的な違いはないと言えます。現行の特許法第39条第5項は、平成30年の改正されたものであり、その改正前は放棄した出願には先願権が残されていました。そのため、放棄は「ノウハウを守るためにブラックボックス化する方法」として多用されてきました。しかしながら、現在の特許法の下ではこの手法は利用できません。

(2)拒絶査定が確定した出願の放棄
 特許法第39条第2項では、
 同一の発明について同日に二以上の特許出願があつたときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも、その発明について特許を受けることができない。
と規定されています。

 例えば、拒絶査定を受けた出願に関し、分割出願が存在している場合は拒絶査定となった出願の存在により、分割出願に関する発明が第39条第2項に基づいて拒絶される場合があります。一方、拒絶査定を受けた出願を「放棄」すれば、その出願は初めからなかったものとなるので、第39条第2項に基づく拒絶を回避することができます。 

審査請求料の返還

 特許庁の審査官による以下のいずれかの通知等が到達する前(審査着手前)であれば、「出願取下書」又は「出願放棄書」の提出することにより審査請求料の返還が可能です(特許法第195条第9項)。
 ・拒絶理由通知(特許法第50条)
 ・特許査定の謄本の送達(特許法第52条第2項)
 ・明細書における先行技術文献開示義務違反の通知(特許法第48条の7)
 ・同一発明かつ同日出願の場合の協議指令(特許法第39条第6項) 

特許権の放棄

 特許法第97条では、以下のように規定されています。
1 特許権者は、専用実施権者、質権者又は第三十五条第一項、第七十七条第四項若しくは第七十八条第一項の規定による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、その特許権を放棄することができる。
2 専用実施権者は、質権者又は第七十七条第四項の規定による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権を放棄することができる。
3 通常実施権者は、質権者があるときは、その承諾を得た場合に限り、その通常実施権を放棄することができる。

 このように、特許権、専用実施権、通常実施権は、放棄することができます。

 また、二以上の請求項にかかる特許は、特許法第185条により、請求項毎に権利があるものとみなされます。そのため、権利の放棄も請求項毎に行うことができます。例えば、不要な従属項に係る発明については、権利を放棄して特許料を節約する、という使い方ができます。

 また、自社の特許を放棄して公衆に使用させることで、自社の技術を当該業界のスタンダードにする、という利用もできます。自社で実施する可能性が全くない場合、ライセンス契約に加えてこのような選択肢をとる可能性も考えられます。 

米国における「放棄」

 以上で日本における特許の取り下げ及び放棄について紹介しましたが、最後に米国における放棄について紹介します。

 米国での特許出願の放棄の具体例として、(i)出願人による明示的な放棄、(ii)期間内応答の不履行による放棄;(iii)ターミナルディスクレーマーが挙げられます。明示的な放棄は、放棄宣誓書を庁に提出することによって行われます。日本における放棄と同様と思われます。期間内応答の不履行とは、例えば、庁指令に対する応答期間内に応答しなかった場合、仮出願後12ヶ月以内に本出願をしなかった場合に出願が放棄と見做されることを意味します。ターミナルディスクレーマーとは、発明の所有者が特許期間の一部を放棄する手続です。具体的には、一方の特許期間の終期を他方の特許の満了日と一致させることにより特許期間の実質的な延長を回避するものです。ターミナルディスクレーマーは、自明型ダブルパテント(二重特許)の拒絶理由を回避するのに利用されます。 

まとめ

 上記のように、特許出願の放棄(取り下げ)と、特許権の放棄とは、全く異なる手続きです。公開前取り下げ、出願し直し、拒絶査定後の放棄など、特許出願の取り下げ及び放棄の目的を理解することで、知財戦略の増強を図ることができます。同じく、特許権の放棄についても、その目的を理解した上で利用することにより、自社の事業の増強の一助にすることもできます。

 IPアドバイザリーは、国内外の特許事務所と連携をしております。各国での特許出願放棄及び取り下げ、並びに特許権の放棄について、より詳しくお知りになりたい場合、弊社にご相談いただければ適切な特許事務所を紹介いたします。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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