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サポート要件違反および実施可能要件違反を防ぐには(その2)

前回の記事(「サポート要件違反および実施可能要件違反を防ぐには(その1)」)で紹介したように、記載要件の中で、サポート要件と実施可能要件とは混同しがちですが、異なる要件です。この記事では、前回の記事の続きとして、主に実施可能要件違反の対策について紹介します。

目次

実施可能要件違反とならないためには

第36条第4項第1号には、実施可能要件として、発明の詳細な説明の記載が、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものであること」が規定されています。

 発明の特許権は、公開を代償として、発明者(出願人)に与えられ得るものです。当業者が発明を実施できるように発明の詳細な説明が記載されていなければ、第三者は発明を実施できず、発明を利用することができません。「発明を実施できるように」記載されていることは、審査基準には以下のように記載されています。

(A)物の発明
(1) 「物の発明」について明確に説明されていること
 この要件を満たすためには、当業者にとって一の請求項から発明が把握でき(すなわち、請求項に係る発明が認定でき)、その発明が発明の詳細な説明の記載から読み取れなければならない、と審査基準には記載されています。

 また、請求項に係る物の発明を特定するための事項(発明特定事項)の各々は、相互に矛盾せず、全体として請求項に係る発明を理解し得るように発明の詳細な説明に記載されていなければならない、とも記載されています。

 例えば、組成物の発明で、
 A成分を20質量%以上45質量%以下;
 B成分を30質量%以上50質量%以下;
 C成分を10質量%以上30質量%以下
を含んでいる、という発明が請求項に記載されているとします。

 A成分及びB成分が上限値である場合、合計が100質量%を超え、C成分を含むことができなくなります。つまり、各発明特定事項が互いに矛盾してしまいます。このような発明については、発明の詳細な説明は実施可能要件を満たすことができません。

(2) 「その物を作れる」ように記載されていること(ただし、具体的な記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者がその物を作れる場合を除く。)

 この要件は、特に化学分野の発明で注意が必要な要件です。新規化合物は、その一例の具体的な合成方法が記載されていないと、当業者は発明を実施することはできません。

 また、機能、特性等によって物を特定しようとする記載を含む請求項において、その機能、特性等が標準的なものでなく、しかも当業者に慣用されているものでもない場合は、当該請求項に係る発明について実施可能に発明の詳細な説明を記載するためには、その機能、特性等の定義又はその機能、特性等を定量的に決定するための試験方法又は測定方法を示す必要ある、と審査基準に記載されています。また、特殊パラメータ発明の場合、請求項に記載した範囲内のパラメータを満たすための条件が明細書に記載されていないと、当業者が実施できないとして拒絶理由を受けることがあります。

 さて、出願人は、できる限り自社のノウハウを開示したくないと考えます。しかしながら、クレームに記載された発明のいずれか一例を実施することができる情報は、開示しなければなりません。例えば、物の発明の場合、本命以外の「あまり好ましくない」が独立項には含まれる物の製造方法を記載するという策あります。また、実際は量産するような製品の場合、ラボスケールの製造方法を記載しておく、という手もあります。例えば、撹拌を必須とする場合、量産とラボとでは撹拌装置自体が異なります。そのため、ラボの撹拌条件であれば開示しても差し支えない場合、ラボの撹拌条件を記載しておくといいでしょう。

(3)「その物を使用できる」ように記載されていること
 審査基準では、物の発明については、当業者がその物を使用できるように記載されなければならない、と記載されています。ここで、「当業者がその物を使用できるように」記載されているとは、請求項に記載した「物」がどのように使用できるか具体的に記載されていることを言います。ただし、具体的な記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいてその物を使用できる場合は、この限りではありません。例えば、化学物質の発明の場合において、その化学物質を使用できることを示すためには、一つ以上の技術的に意味のある特定の用途が記載されている必要があります。特に、化学物質に関する技術分野のように、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明の場合に、当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要です。また、用途発明(例:医薬)においては通常、用途を裏付ける実施例が必要です。

(B)方法の発明
 審査基準には、方法の発明について実施をすることができるとは、その方法を使用できることである、と記載されています。より具体的には、「発明の実施の形態」は、それが可能となるように(具体的には、以下の(1)及び(2)の要件を満たすように)記載されなければならない、と記載されています。
(1)「方法の発明」について明確に説明されていること
 この要件を満たすためには、一の請求項から発明が把握でき(すなわち、請求項に係る発明が認定でき)、その発明が発明の詳細な説明の記載から読み取れなければなりません。
(2)「その方法を使用できる」ように記載されていること
 物を生産する方法以外の方法(いわゆる単純方法)の発明には、物の使用方法、測定方法、制御方法等様々なものがありますが、いずれの方法の発明についても、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者がその方法を使用できるように記載されなければなりません。

(C)物を生産する方法の発明
 方法の発明が「物を生産する方法」に該当する場合は、「その方法を使用できる」というのは、その方法により物を生産できることです。そのため、発明の詳細な説明の記載が以下の要件を満たしている必要があります。
(1)「物を生産する方法の発明」について明確に説明されていること
 この要件を満たすためには、一の請求項から発明が把握でき(すなわち、請求項に係る発明が認定でき)、その発明が発明の詳細な説明の記載から読み取れなければならなりません。
(2)「その方法により物を生産できる」ように記載されていること
 物を生産する方法の発明には、物の製造方法、物の組立方法、物の加工方法等の発明があります。いずれも、(i)原材料、(ii)その処理工程及び(iii)生産物の3つから成ります。そして、物を生産する方法の発明については、当業者がその方法により物を生産できなければならないので、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を生産できるように、原則として、これら3つが記載されなければなりません。一方、審査基準には、これら三つのうち生産物については、原材料及びその処理工程についての記載から当業者がその物を理解できる場合には、生産物についての記載はなくてもよい、と記載されています。例えば、単純な装置の組立方法であって、部品の構造が処理工程中に変化しないもの等がこの場合に該当します。一方、化合物の製造方法に関する発明については、発明の詳細な説明に、上記3つが記載されていないといけません。

「達成すべき結果」によって発明を特定する請求項

 例えば、「●●で測定される透気度が85%以上のフィルター」という発明があったとします。そして、発明が解決しようとする課題が、「高い透気度を有するフィルターを提供すること」であったとします。課題との関係を鑑みると、上記発明の「●●で測定される透気度が85%以上」という記載は、「達成すべき結果」で物を特定しようとする記載である、ということができます。

 このような記載があり、発明の詳細な説明に特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由があるときには、実施可能要件違反となるので留意が必要です。

実施可能要件違反の拒絶理由を通知されたら

 実施可能要件違反の拒絶理由を通知された場合、それを補うための明細書の補正は、許容されない可能性が高いと思われます。そのため、出願時の明細書の記載に基づいて、当業者が実施できる程度に記載されていることを丁寧に説明する必要があります。ただし、安直に「当業者であれば、先行技術の化合物が本発明の化合物を容易に合成できる」などと主張すると、本発明に進歩性がないことを暗に認めたとみなされることがあります。よって、実施可能要件違反の反論は、慎重に行うことが必要です。

まとめ

 このように、実施可能要件は、拒絶理由を受けた後の対応が非常に困難な要件です。そのため、出願時の明細書の記載が重要です。IPアドバイザリーは、実施可能要件を含め、日本の特許法に精通した特許事務所とコンタクトを取っています。

 また、記載要件は、米国、欧州、中国などの海外でも規定されています。概して、基本的な考え方は、世界共通です。そのため、日本出願の際に記載要件に対してしっかりと対策をしていれば、外国での記載要件に対しても対策を取ることとなります。ただし、各国ごと、大なり小なり、記載要件の規定には相違があります。そのため、外国出願する際には、出願国の記載要件を十分に把握する必要はあります。

 IPアドバイザリーでは、米国及び中国での記載要件を十分に把握した上で、出願書類等の翻訳を行っております。米国および中国への出願をお考えの場合、一度お問い合わせください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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