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特許権の侵害−翻訳のプロが説明する、翻訳が特許権侵害に及ぼす影響とは?

 池井戸潤のヒット作「下町ロケット」では、ロケットの内製化を進めている大手企業の帝国重工の財前部長が、ロケットの重要部品であるバルブシステムの特許の売り渡しの交渉のため、町工場である佃製作所に訪れます。これは、帝国重工が佃製作所の特許発明を実施した場合、特許権を得ているか、又は特許権者である佃製作所から実施権(通常実施権、専用実施権)の許諾を得ていないと、佃製作所から特許権侵害で訴えられる可能性があるからです。現実世界でも、例えばAppleとサムソンとの間など、特許侵害訴訟が起きたことが有名です。このように、特許権を侵害していると、最悪、訴訟となる可能性があるのです。

 さて、特許権を侵害しているか否かは、第三者の発明の実施が特許発明の技術的範囲に入っているか否かとなります。よって、せっかく特許権を取得したとしても、取得した特許の権利範囲(特許発明の技術的範囲)が他者の実施の態様を包含していないと、特許権を行使することができないのです。ここで、特許発明の技術的範囲の認定は、主に、特許請求の範囲(以下、クレーム)の記載に基づくものです。そして、海外の特許権のクレームは、当然に、現地語となっています。そのため、翻訳は、特許権の侵害に少なからず影響を及ぼし得ると言えます。

この記事では、特許権の侵害の概略と、翻訳が特許権の侵害に及ぼす影響とを説明します。 

目次

特許権の侵害について

 調査等によって、実施権を設定されていない第三者が「特許発明」を「実施」していることがわかった場合、特許権者は、特許権を侵害したとして、特許権を行使することができます。(特許権者がとり得る行為としては、具体的には、例えば、警告書の送付、ライセンス交渉、侵害訴訟が挙げられます)

 以下、発明の「実施」及び「特許発明」について、説明します。

 なお、特許権は属地主義であるため、侵害しているか否かは、各国の法律に基づいて判断されるものです。以下では、日本の特許法をベースに、一般化できると思われる事項のみを説明しますが、実際の侵害の判断は、繰り返しになりますが、各国の法律に基づいて判断されるものであることをご了承ください。

発明の実施

特許法第2条第3項では、以下の行為が発明の実施であると定められています。
 [物の発明]その物の生産、使用、譲渡、輸出若しくは輸入、譲渡の申出等
 [方法の発明]その方法を使用する行為
 [物を生産する方法の発明]その方法を使用する行為、その方法により生産した物の使用、譲渡、輸出若しくは輸入、譲渡の申出等

 実施権を設定された者以外の者が上記行為を「業」として行った場合、その者は特許権侵害で訴えられる可能性があります(研究等、「業」としての行為は、特許権の侵害となりません)。 

特許発明の技術的範囲

 特許発明を実施しているか否か、すなわち特許権を侵害しているか否かは、第三者が、特許権の技術的範囲、すなわち特許発明の技術的範囲内の発明を実施しているか否かで判断されます。

 特許法第36条第5項では、特許請求の範囲(クレーム)には、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを記載しなければならない旨が規定されています。つまり、クレームの記載は、出願人が認めた、特許発明の技術的範囲となります。従って、特許発明の技術的範囲は、クレームの記載に基づいて、認定及び確定されるものです

 ただし、クレームの記載だけでは発明を十分に把握できない場合(多くの場合はこれに該当)には、発明の詳細な説明を参酌することができます
 そして、特許権取得までの中で、意見書等で出願人が主張した事項等も、特許発明の技術的範囲の認定に参酌される場合があります。

 つまり、特許請求の範囲の記載だけでなく、例えば発明の詳細な説明の記載、及び意見書等で述べる事項も、特許権の権利行使に関わってきます。

 そして、外国出願をした場合、これらの書面は、現地語で提出されることとなります。

 当然、現地語へは、翻訳が必要となります。つまり、翻訳は、特許権の侵害に少なからず影響を及ぼすのです。

翻訳が特許発明の技術的範囲に及ぼす影響

(1)クレーム
 例えば、以下のような特許発明があったとします。

 組成物であって、
 10重量%以上30重量%以下のA成分と、
 10重量%以上30重量%以下のB成分と、
 5重量%以上35重量%以下のC成分と
 1重量%以上40重量%以下のD成分と
を含む組成物。

 一方、第三者が販売している製品が、
 25重量%のA成分と、
 30重量%のB成分と、
 20重量%のC成分と、
 13重量%のD成分と、
 12重量%のE成分と
を含んでいる組成物を想定します。
 特許発明の構成要件を分説し、第三者製品と比較すると、以下のようになります。 

左の表から明らかなように、第三者製品は、特許クレームの構成要件を全て満たしていると認められます。この場合、第三者製品は、特許権を侵害している疑いがあります。

 一方、この特許の出願の優先権を主張して、X国に現地語で出願した場合を想定します。ここで、X国で実際に出願された内容は、以下であると想定します。

 組成物であって、
 10重量%以上30重量%以下のA成分と、
 10重量%以上30重量%未満のB成分と、
 5重量%以上35重量%以下のC成分と
 1重量%以上40重量%以下のD成分と
を含む組成物。

 つまり、B成分の含有量の範囲が、30重量%を含んでいません。(実際にこのような翻訳のミスは少ないとは考えますが、あくまで疑似案件としてご参考にしていただければと思います)

 X国での特許発明について、先程の第三者製品と比較をすると、以下のようになります 

このように、X国では、第三者製品は、要件Cを満たしていないため、特許権侵害を訴えることができません。

次に、Y国に、この特許の出願の優先権を主張して、X国に現地語で出願した場合を想定します。ここで、X国で実際に出願された内容は、以下であると想定します。

 組成物であって、
 10重量%以上30重量%以下のA成分と、
 10重量%以上30重量%以下のB成分と、
 5重量%以上35重量%以下のC成分と
 1重量%以上40重量%以下のD成分と
からなる組成物。

 X国での特許発明について、先程の第三者製品と比較をすると、以下のようになります 。

このように、Y国でも、第三者製品は、要件Fを満たしていないため、特許権侵害を訴えることができません。

このように、クレームの翻訳一つで、特許発明の技術的範囲が変わり、特許権侵害を訴えることができるか否かが変わってくる可能性があるのです。

(2)明細書
 クレームだけなく、明細書の翻訳一つでも、特許権侵害を訴えることができるか否かが変わってくる可能性があります。

 例えば、基礎出願の明細書に、以下のような説明が記載されていたとします。

 本発明において、A成分は、例えば、〇〇である。

 この文章がZ国で、

 本発明おいて、A成分は、○○である。

と、「例えば」が抜けて翻訳されていたとします。

 すると、Z国で権利行使をした場合、例えば、「特許権者は、本発明においてはA成分が〇〇であると自ら認めている」と相手方に主張され、特許発明の技術的範囲が限定解釈される恐れがあります。

 意見書等で同様に「本発明おいて、A成分は、○○である」と説明した場合も同様の恐れがあります。

 このように、クレームだけでなく、明細書や意見書等の翻訳も、特許発明の技術的範囲に影響を与え得るのです。 

まとめ

 このように、特許翻訳は、少なからず、特許権侵害の際の権利行使に影響を及ぼします。

 翻訳のミスに起因して、本来できるはずの権利行使ができないといった事態に陥るのを防ぐためには、適切な翻訳会社を選択することが重要となってきます。
 IPOMOEAでは、日本語の明細書の技術的内容を十分に理解した上で、英語及び中国語に同時翻訳を提供しますので、基礎出願の出願内容で規定される技術的範囲に忠実に即した英語明細書及び中国語明細書を提供しています。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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