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コロナウイルスワクチンの特許に対して世界はどのような対応?

 2019年末から起きている新型コロナウイルス(COVID-19、以下「新型コロナウイルス」で統一します)によるパンデミック。このパンデミックを抑えるための筆頭対策として、ワクチン接種率の向上が挙げられます。ワクチン開発には巨額の開発費が投じられており、当然のことながら特許も出願されて権利化されています。ワクチンに関する特許にはどのようなものがあるのか、簡単に見てみましょう。 

目次

コロナウイルスとは?

 まず、コロナウイルスについて簡単に説明します。以下に、コロナウイルスのイメージ図を示します。以下のイメージ図はワクチンの説明に用いる部分を強調して説明するためのもののであり、極めて概略的であることにご留意ください。

 コロナウイルスはウイルス球体を含み、その中にRNAゲノム(上図では線状で示しています)を有しています。そのため、コロナウイルスはRNAウイルスと呼ばれています。RNAウイルスは、ヌクレオカプチドという物質(上図では赤い丸で示しています)に結合しています。ウイルス球体は、エンベロープと呼ばれる脂質二重膜があります。コロナウウイルスは、このようなエンベロープ構造を有しているため、アルコール消毒が有効であると言われています。そして、エンベロープにはトゲトゲのスパイクタンパク質が突き刺さっています。外見的に球体を飾る王冠のようなものにも見えるため、「コロナウウイルス」と名付けられたそうです。

 さて、このようなコロナウイルスは、概して、以下のようなサイクルで、感染していきます。
①スパイクタンパク質が動物細胞表面にある受容体に結合する。
②宿主細胞内に侵入する。
③細胞内でRNAゲノムが放出される。
④細胞内でウイルスの素材が合成される。
⑤素材が組み合わさってコロナウウイルスとなり成熟する。
⑥コロナウイルスが放出される。

 世界的に猛威を奮っている新型コロナウイルスは、このようなコロナウイルスの1種なのです。このコロナウイルスの感染を予防するためのワクチンが、新型コロナウイルスのワクチンです。 

新型コロナウイルスワクチンについて

 2021年10月現在、国内で摂取が進んでいるワクチンは、ファイザー/ビオンテック連合及びモデルナ社がそれぞれ開発したmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン、並びにアストラゼネカ社が開発したウイルスベクターワクチンです。これら2種類のワクチンは、抗体を得るための機序が全く異なります。以下に簡単に説明します。

(1)mRNAワクチン

 mRNAワクチンは、抗原蛋白の塩基配列を作る情報を持ったメッセンジャーRNAという遺伝子(核酸)を人体へ注入することで、体内の細胞にウイルス抗原蛋白を生成させるものです。コロナウイルスの周囲には、上記のとおり、特徴的なトゲトゲのスパイクと呼ばれる部分があります。新型コロナウイルスが体内に入ると、人体では今後このウイルスが体内に定着しないように(抗体免疫を高めるために)、このスパイクタンパク質に対応する抗体を生成しようとします。

 ワクチンのmRNAは言うなれば、このトゲトゲの部分だけを体の中で大量に作る設計図を有する遺伝子です。このトゲトゲが体内で大量に発生すると、新型コロナウイルスが体内に侵入してきた場合と同様に体内で抗体が生成されます(発熱やモデルナアームなどの副作用もこの際に出てくると思われます)。ワクチン接種による抗体の生成量は、新型コロナウイルスが体内に入った場合よりも遥かに多いと言われています。しかも、mRNAワクチンは新型コロナウイルスのトゲトゲ部分だけなので、感染させずに免疫機能を高めることができます。そして、ワクチンのmRNAは不安定な物質であるため、自然に分解されて体外に排出されます。

(2)ウイルスベクターワクチン

 ウイルスベクターワクチンは、ヒトに対して病原性のない、又は弱毒性のウイルスベクターに抗原蛋白質の遺伝子を組み込んだ組み換えウイルスを投与するワクチンです。ウイルス自体が細胞に侵入することにより、細胞質で抗原たんぱく質をつくり出すことができます。それにより、抗体によりウイルスを排除する「液性免疫」が得られるとされています。また、免疫細胞の1つであるキラーT細胞などにより排除する「細胞性免疫」が得られるとも言われています。 

新型コロナウイルスワクチンに関する特許

 次に、mRNAワクチンに関する特許を紹介します。

 まず、ファイザー/ビオンテック連合製ワクチンとモデルナ社製ワクチンとは、基本的な仕組みは同じです。これは両者とも、ペンジルベニア大学からの技術を導入しているからだそうです。そのため、ファイザー社製ワクチンの抗体の減衰が盛んに報道されていますが、実際のところモデルナ社製の方が、抗体が長持ちする理由が不明な気がします。

 さて、これらのワクチンは、中身であるmRNAと脂質ナノ粒子とに大きく分けられます。脂質ナノ粒子は、不安定なmRNAを保護しながら体内に導入するための包装(キャリアー)として働きます。以下にこれらに関する特許について紹介します。

(1)mRNAの基本特許

 mRNAワクチンのmRNAについての基本特許は、米国のペンシルベニア大学のUS 8278,036 B2(出願日:2006年8月21日)であると言われています。日本でも権利化されており、例えば、特許第6842495号(出願人:ペンシルベニア大学;筆頭発明者:KATALIN KARIKO)であると思われます。KATALIN KARIKO氏は、ペンシルベニア大学からビオンテック社に移籍しています。そして、モデルナ社製ワクチンはペンシルベニア大学の特許に基づいています。これが、両者が基本的には同じ、と言われている所以であると思われます。

(2)脂質ナノ粒子の基本特許

 mRNAワクチンの脂質ナノ粒子についての基本特許は、アービュータス・バイオファーマのUS8,058,069B2(出願日:2009年4月15日)であると言われています。こちらも日本でも権利化されています(プロチバ バイオセラピューティクス インコーポレイティッドによって出願された、特許第5697988号)。出願はカナダのベンチャー企業であるプロチバ社が行いましたが、買収されて上記権利社の特許となっています。

(3)関連特許

 基本特許は上記のとおりですが、他の業界と同様に関連(周辺特許)も数多くあります。その中でもモデルナ社は、パンデミック直後にコロナウイルスに対するmRNAワクチンの基本設計が記載されたUS10,702,600を出願しています。そして、mRNAワクチンに関する特許に基づく特許ネットワークが世界中に広がっており、ライセンス契約、サブライセンス契約(通常実施権者がさらに第三者に対して実施許諾をすること)などが多く結ばれています。 

新型コロナウイルスワクチンについて

 各国で新型コロナワクチンを製造できるように、ワクチンに関する特許の一時放棄を、世界貿易機関(WTO)が提案しました。この提案に対し、2021年6月に行われたG7では、米国及びフランスは賛成、ドイツは慎重の姿勢を示しました。日本は明確な態度を示しませんでした。中国はWTOの提案を指示しています。米国及びフランスは、途上国からの要請に応じた形のようです。ドイツが慎重な姿勢を示したのは、上記ビオンテック社の本拠があるためでないかと思われます。同じように、EUも消極的立場です。

 一方、各製薬会社は、上記提案に対して反発を強めています。例えばモデルナ社は、2020年10月9日に、「ワクチンを開発中の他者に対し、パンデミックが続く間、モデルナは当社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の特許権を行使しない」ことを表明し、対象となる特許のリストも公開されました。しかし、WTOの提案に対しては特許権を放棄しても供給量は増えない、と反発しています。そして、ファイザーもモデルナも、十分な供給量を確保すると述べています。

 世界貿易機関(WTO)には、加盟164カ国すべてが承認すれば特許放棄を認める権限があります。2021年5月時点で100カ国以上が放棄を支持していますが、一部の欧州連合(EU)加盟国など反対も多い状況です。2021年の11月から閣僚級会合が開かれる予定であり、この会合に注目されます。 

まとめ

 新型コロナウウイルスワクチンに関する特許をめぐって、世界的な特許の一時放棄とすべきかが話題となっています。人類の生命も重要であり、かつ企業の利益も重要です。企業に利益がなければ新たなワクチンの開発につながらなくなるからです。立場によって主張が異なりますが、それぞれの主張は理にかなっていると思われます。とにもかくにも、新型コロナパンデミックが収束するのを祈るばかりです。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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