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米国特許訴訟におけるディスカバリー|各国での証拠収集手続き

「米国で特許権を侵害されたら?|権利行使と特許権侵害訴訟の方法」の記事で紹介したように、米国における特許権侵害訴訟などの民事訴訟は概略的に下図の流れで行われます。

 米国における特許権侵害訴訟において費用が一番かかるのはディスカバリー手続きであると言われています。これは、ディスカバリー手続きにおいて相手方から求められた文書は全て提出しなければならず、その分析検討に多くの労力が必要となるからです。特許権侵害訴訟における時間の大半を占めるのもこのディスカバリー手続きであると言われており、手続きには約2年を要します。このディスカバリー手続きを通じて侵害の立証のための証拠を収集することができます。そして、米国に限らず特許権侵害訴訟において侵害の立証のための証拠収集は、訴訟の行方を左右する重要な手続きです。

 この記事では、米国におけるディスカバリー制度をはじめとした、各国での証拠収集手続きについて紹介します。 

目次

米国におけるディスカバリー制度とは?

(1)米国におけるディスカバリー制度とは

  米国での民事訴訟手続きは、トライアル(正式事実審理)の前にプレトライアルという手続きがあることが大きな特徴です。このプレトライアルは、米国の民事訴訟の手続きにおいて、和解の可能性の可否、和解の方向性などの判断に影響を与え得る重要な手続きです。

 ディスカバリー手続とは、このプレトライアルにおいて訴訟当事者が当該事件に関係 する情報を互いに提出し合うという証拠開示手続きの制度です。この制度の目的は、訴訟当事者間の自主的で全面的な事実関連調査と証拠収集活動とにあり、究極的には、訴訟当事者が証拠を開示し合うことにより、当事者同士が事実を正しく認識し、可能な限り当事者同士で問題を解決するように促すことにあります。

 実際に米国における民事訴訟では、トライアルまで進むことはまれであり、プリトライアルの段階で和解するか、和解しなくても陪審員の評決を必要とせずに裁判所の判断によって訴訟を終了させる事案が全体の98%を占めています。このトライアル省略の手続きをSummary Judgement(略式判決)といいます。このように、大部分の訴訟案件が「和解」という結果となっているため、できるだけ自社にとって有利な条件で和解に持ち込むことを目指すべきということになります。

 ディスカバリー手続きのメリットとしては、例えば
・情報や争点が整理され、それにより当事者間で和解という形での解決につながる
・個人が原告であっても大企業と対等に戦うことができる
・客観的事実に基づく合理的な評決につながる
などが挙げられます。

 一方でディスカバリー手続きにおいて証拠の隠蔽や改ざんなどがあると、罰則があったり訴訟で不利になったりします。民事訴訟の一例である特許権侵害訴訟でも、ディスカバリー手続きは重要な手続きの一つとなります。そのため当事者は、ディスカバリー手続きを手続きの一つとして軽く考えたり、完全に人任せにしたりすることはおすすめできません。

(2)ディスカバリーベンダー

 ディスカバリー手続きにおいて重要なのが、ディスカバリーのレビューを担当するディスカバリーベンダーの選定であると言われています。そして、このディスカバリーベンダーの選定を人任せにしすぎるとディスカバリー手続きにかかる費用を制御できず、費用が高額になる恐れがあると言われています。

 今は、コンピューターを利用してレビュー作業を行うプレディクティブ・コーディングなどの技術を用いることで、ディスカバリー手続きにかかる費用をできるだけ低減できるとも言われています。そのため、信頼のおける現地代理人に十分にコンサルティングを行ってもらい、適切なベンダー選定をすることが重要です。 

日本における「査証制度」

 日本の民事訴訟法には、争点整理や証拠収集の迅速化の観点から、訴え提起前の照会(132条の1、2、3)や訴え提起前の証拠収集のための処分の手続(132条の4)があります。正当な理由あって拒絶する場合には特段の制裁はありませんが、虚偽の回答をした場合には弁論の全趣旨として考慮されて不利な扱いがなされます。

 しかしながらいずれも強制力は無く、違反した場合に罰金を課すなどの制裁はありません。そのためこのような日本の法制度は、米国のディスカバリー制度と比して効力が弱いと言えると思われます。そういった背景から、2020年施行の特許法改正により「査証制度」の関する105条の2が新設されました。以下に条文を示します。

(査証人に対する査証の命令)
第百五条の二 裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、立証されるべき事実の有無を判断するため、相手方が所持し、又は管理する書類又は装置その他の物(以下「書類等」という。)について、確認、作動、計測、実験その他の措置をとることによる証拠の収集が必要であると認められる場合において、特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由があると認められ、かつ、申立人が自ら又は他の手段によっては、当該証拠の収集を行うことができないと見込まれるときは、相手方の意見を聴いて、査証人に対し、査証を命ずることができる。ただし、当該証拠の収集に要すべき時間又は査証を受けるべき当事者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるときは、この限りでない。
2 査証の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面でしなければならない。
一 特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由があると認められるべき事由
二 査証の対象とすべき書類等を特定するに足りる事項及び書類等の所在地
三 立証されるべき事実及びこれと査証により得られる証拠との関係
四 申立人が自ら又は他の手段によっては、前号に規定する証拠の収集を行うことができない理由
五 第百五条の二の四第二項の裁判所の許可を受けようとする場合にあっては、当該許可に係る措置及びその必要性
3 裁判所は、第一項の規定による命令をした後において、同項ただし書に規定する事情により査証をすることが相当でないと認められるに至つたときは、その命令を取り消すことができる。
4 査証の命令の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(査証人の指定等)
第百五条の二の二 査証は、査証人がする。
2 査証人は、裁判所が指定する。
3 裁判所は、円滑に査証をするために必要と認められるときは、当事者の申立てにより、執行官に対し、査証人が査証をするに際して必要な援助をすることを命ずることができる。
(忌避)
第百五条の二の三 査証人について誠実に査証をすることを妨げるべき事情があるときは、当事者は、その査証人が査証をする前に、これを忌避することができる。査証人が査証をした場合であっても、その後に、忌避の原因が生じ、又は当事者がその原因があることを知つたときは、同様とする。
2 民事訴訟法第二百十四条第二項から第四項までの規定は、前項の忌避の申立て及びこれに対する決定について準用する。この場合において、同条第二項中「受訴裁判所、受命裁判官又は受託裁判官」とあるのは、「裁判所」と読み替えるものとする。
(査証)
第百五条の二の四 査証人は、第百五条の二第一項の規定による命令が発せられたときは、査証をし、その結果についての報告書(以下「査証報告書」という。)を作成し、これを裁判所に提出しなければならない。
2 査証人は、査証をするに際し、査証の対象とすべき書類等が所在する査証を受ける当事者の工場、事務所その他の場所(次項及び次条において「工場等」という。)に立ち入り、又は査証を受ける当事者に対し、質問をし、若しくは書類等の提示を求めることができるほか、装置の作動、計測、実験その他査証のために必要な措置として裁判所の許可を受けた措置をとることができる。
3 執行官は、第百五条の二の二第三項の必要な援助をするに際し、査証の対象とすべき書類等が所在する査証を受ける当事者の工場等に立ち入り、又は査証を受ける当事者に対し、査証人を補助するため、質問をし、若しくは書類等の提示を求めることができる。
4 前二項の場合において、査証を受ける当事者は、査証人及び執行官に対し、査証に必要な協力をしなければならない。
(査証を受ける当事者が工場等への立入りを拒む場合等の効果)
第百五条の二の五 査証を受ける当事者が前条第二項の規定による査証人の工場等への立入りの要求若しくは質問若しくは書類等の提示の要求又は装置の作動、計測、実験その他査証のために必要な措置として裁判所の許可を受けた措置の要求に対し、正当な理由なくこれらに応じないときは、裁判所は、立証されるべき事実に関する申立人の主張を真実と認めることができる。

(以下略)

 この「査証制度」は、申立人(特許権者)の申し立てに基づき、裁判所の命令によって中立公正な専門家が侵害の立証に必要な資料を相手方当事者から収集できる制度です。この資料は申立人(特許権者)が証拠として利用できます。そして、相手が調査を拒んだ場合、査証を申し立てた当事者(特許権者)の主張、すなわち「侵害があったこと」が「真実である」と認められます。

 このように、日本で新設された「査証制度」は、特許権者が侵害を立証する上で有用な制度と言えます。一方で、特許権侵害訴訟の被告側となった場合には査証を受ける可能性があることに留意が必要です。 

他国での証拠収集制度

(1)欧州

(A)フランス「セジー」
 フランスでは、特許侵害訴訟において「セジー」と呼ばれる証拠収集制度があります。この制度は特許権者側にとっては非常に有効な手段ですが、被告側の営業秘密保護の観点からは、侵害立証に関係する営業秘密に関しては開示との判断がなされ得ることから強制力が強く強すぎる制度である、という見方もあります。

(B)イギリス「捜索命令」

 イギリスには「捜索命令(ディスクロージャー)」と呼ばれる証拠収集制度があります。捜索命令は、被申立人の請求に基づいて営業秘密を閲覧可能な者を限定し、守秘義務を課す、という営業秘密の取り扱いが特徴です。ただしイギリスでは、必要な証拠は他の手段で取得可能であるため、特許分野での利用は極めて稀であるとのことです。

(C)ドイツ「査察」

 ドイツには「査察(Besichtigung)」と呼ばれる証拠収集制度があります。この制度は、相手方が特許権を侵害していることが確実であることなど、厳しい要件があることから利用件数は極めて少ないようです。

(2)中国

 中国には、米国におけるディスカバリー制度はないものの、専理法第61条で、裁判所が原告の請求により侵害物品又は帳簿などの侵害証拠を職権で取得できることが規定されています。 

まとめ

 米国におけるディスカバリー手続きは、特許侵害訴訟において非常に重要な部分を占めています。そのため軽視をすることは危険です。一方、日本でも査証制度があり、要件はディスカバリー手続きよりは厳しいものの、侵害立証をする上で有用な制度です。

 IPアドバイザリーは、各国の特許制度や法制度に詳しい事務所とコンタクトを取ることができます。ディスカバリー手続きに関してご質問がある場合は、お気軽にご連絡ください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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