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大切な発明の種を埋もれさせないで!発明発掘のポイントを説明

  特許出願をするには、出願をする発明をしなければなりません。発明の種は、往々にして、従業員の業務の中に埋もれています。企業は、従業員が行った発明の種を「発明」として発掘する必要があります。この記事では、発明の発掘について紹介します。

目次

発明発掘とは

 企業において、技術者は、業務として日々研究開発をしています。研究開発の方針は、様々ですが、一つの方針として、或る「技術課題」を解決する解決手段を見出すことが挙げられます。この解決手段は、発明となる可能性を秘めています。また、ルーチンワークでデータをとっていたところ、たまたま予期せぬ顕著な効果を奏する技術を見出すことがあるかもしれません。これも発明の種になり得ます。これらの発明の種は、自然と表に出ることもありますが、掘り出してあげないと日の目を見ないものもあります。そのため発明の種を掘り出す、すなわち「発明の発掘」が必要となるわけです。

 発明発掘には、大きく分けて2つあると思われます。

(1)開発者の挙げてくる提案を「発明」に昇華する
(2)知財ポートフォリオを鑑み「発明」を生み出す開発方針を提案する

 以下、それぞれについて紹介します。 

発明発掘①:発明への「昇華」

  特許を受けることができる「発明」は、特許法第2条第1項において「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。より具体的には、発明が特許を受けるためには、新規性及び進歩性を有している必要あります(他の要件も必要ですが)。

 開発者や提案者は、特許法をあまり知らない場合も多く、特許法に鑑みた提案ができない場合も少なくありません。そのため、開発者が新規性及び進歩性があると考えて提案をしてきてもその提案には新規性すらない場合もあります。特に化学や材料関係の研究・開発では、例えば、公知の物質のパラメータについて、顕著な効果を奏する好ましい範囲を見つけることがあると思われます。当然ながら、研究開発段階においてこのような知見は非常に重要なものです。しかし既知の物質についての一側面の発見のみでは、特許性が認められる可能性が非常に低いと思われます。

 例を挙げます。

 従来、例えば特許文献1には、パラメータXが範囲x内にある物質Aが課題Yを解決できる顕著な効果を奏することが記載されていました。開発者は、この物質Aについて、パラメータBが範囲b内にあるものが課題Yを解決するのに特に顕著な効果を奏することを発見し、この発見を発明として提案してきました。このような発明を、特に対策もなく出願した場合、以下のように判断される可能性が高いと思われます。

 特許文献1には、物質Aが課題Yを解決できることが記載されている。また、特許文献1は、本願発明と同様に課題Yを解決することができるものであるから、本願発明と同様にパラメータBが範囲b内にあるものである蓋然性が高い。そのため本願発明は、特許文献1に記載された発明であるか、特許文献1から当業者が容易に発明することができたものである。

 このように判断されないためには、開発者からの提案の特許性を少しでも高めて「発明」に昇華させることが重要です。以下にいくつか対策を示します。

(A)公知技術との相違点を組み込む
 同様の物質Aであっても、公知物質と完全に同一でなく「物」としての特徴で異なるものがないかを探ります。このような特徴があれば、その特徴を相違点として独立項に記載することで、新規性を確保することができます。また、そのような相違点が、単なる微差に過ぎないとして進歩性なしと判断されないように、この相違点を含む物質Aを得るための工夫(公知でないもの。例えば製造方法)及び相違点に基づく顕著な効果を明細書に記載することが重要です。

(B)選択発明として出願する
 特許文献に記載された物質Aの範囲が広過ぎる場合、選択発明として出願するという手段もあります。審査基準の第Ⅱ部第2章2.5(3)③(ⅰ)には、以下のように記載されています。

 選択発明とは、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明で、刊行物において上位概念で表現された発明又は事実上若しくは形式上の選択肢で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明又は当該選択肢の一部を発明を特定するための事項と仮定したときの発明を選択したものであって、前者の発明により新規性が否定されない発明をいう。

 選択発明として出願する場合、パラメータBが範囲bにある実施例、及び範囲bの範囲外にある比較例のデータがあると特に有用です。ただし、当業者がパラメータBが範囲bにある物質Xを得ることができる程度に、すなわち実施可能要件を満たすように、明細書にパラメータBが範囲bにある物質Xを製造できる方法を記載する必要があります。ここで記載する製造方法が公知の製造方法だと、パラメータBが範囲bにある物質Xは公知の方法で得ることができる公知のものであると判断されてしまいます。そのため、ここで記載する製造方法は、従来公知の方法との相違点を有することが重要です。物のクレームの他に、製造方法のクレームを立てることも一案です。

(C)評価方法の発明として出願する
 上記(A)及び(B)のいずれも難しく、パラメータBに関しては従来誰も着目していなかった場合には、例えば、パラメータBに着目した評価方法に関する発明で出願するという案もあります。

 以上に例を挙げたように、開発者からの提案を「発明」に昇華させる方法はたくさんあります。新規性が明らかにないからといって「発明の種」を切り捨てるのではなく、発明に昇華させることも発明の発掘の一つです。なお、以上では「物」の発明である物質Xについて例を紹介しましたが、方法の発明や物を生産する方法の発明についても考え方は同じです。 

発明発掘②:発明を生み出す開発方針の提案

  開発者や研究者に対し、企業の知財戦略に基づく目的の特許ポートフォリオを構築できるような開発方針を提案することも、発明発掘の一つと言えます。

 提案する開発方針は、
(1)「攻め」の開発方針
(2)「守り」の開発方針
に大別されます。
 
  以下に技術マップを利用した提案の例を示します。ただし、以下に示す例は筆者が想定したモデルケースの一つであり、実際のケースとは異なり得ることにご留意ください。技術は、例えば、自社の技術優位性をX軸に、市場成熟度をY軸にした技術マップに落とし込むことができます(詳しくは「企業の知財戦略の強化につながるための、特許ポートフォリオの理解とは?」)。この技術マップは、これらX軸とY軸とによって4つの領域に分かれます。以下に、例を示します。

(A)自社の技術優位性が高く、市場成熟度が高い技術
 この領域の技術を有する事業は、自社のシェアが高いことが伺えます。 この領域の技術については、既存特許の周辺特許を抑える開発を行なって、他社の参入を防いだり、シェアを拡大したりすることが有効であると思われます。よって、この領域の技術の開発は「守り」の開発であり、その技術を権利化する出願戦略は「守り」の権利化と言えます。

(B)市場の成熟度が高いが自社の技術優位性は比較的低い技術
 この領域の技術については、自社が開発を進めても市場に参入することが難しい可能性が高いものです。しかしながら、このような領域において他社により先んじて特許が取得されている場合であっても他社が解決しようとする課題を見出し、その有効な解決手段を見出すことができれば、他社の技術開発を妨げる特許となり得ます。自社で実施しない場合でも、ライセンスによる収益を得るための権利化という方針をとることもできます。よって、この領域の技術の開発は「攻め」の開発であり、その技術を権利化する出願戦略は「攻め」の権利化と言えます。

(C)市場成熟度が低く、自社の技術優位性も低い技術
 この領域の技術の中には既存技術では決して達成できない、極めて新規な技術が埋もれている可能性があります。この技術の権利化ができ、市場のニーズに合えば、自社が実施しても実施しなくても収益となる可能性があります。よって、この領域の技術の開発は「攻め」の開発であり、その技術を権利化する出願戦略は「攻め」の権利化と言えます。

(D)自社の技術優位性が高く、市場成熟度が低い技術
 このような技術は、自社にとってのオンリーワンの技術となり得るものです。よって、この領域の技術の開発及び権利化は「攻め」及び「守り」の両面を有していると言えます。 

課題及び解決手段の把握

  発明が特許を受けるためには、発明が「特別な技術的特徴」を有している必要があるといえます。二以上の発明が特許請求の範囲に記載されている場合、特許の審査段階において発明の単一性が満たされているかが判断されます。この際、二以上の発明が、同一または対応する「特別な技術的特徴」(STF)を有しているかが判断されます。特別な技術的特徴は「先行技術に対する貢献を示す」技術的特徴であると、特許法第25条の8で定義されています。

 先行技術に対する貢献とは、例えば、発明が、先行技術との相違点を有していることにより、先行技術では解決できなかった課題を解決することができることであると解釈することができます。

 すなわち、発明の発掘の際には、以下の点が重要であると思われます。
・先行技術との相違点を把握する
・その相違点を有することによって先行技術では達成しなかった課題を解決できることの論理づけが可能か検討する

 先に説明した発明への昇華の場合、開発者から、上記事項を引き出すことが重要です。 開発方針を提案する場合、課題自体を提案することが肝になります。 

まとめ

  発明は、開発者や発明者の日常の業務の中に埋もれていることがあります。埋もれている「発明の種」を効率的に発掘することが、企業の知財戦略にとって重要です。開発者や発明者からの提案では、一見特許性がないものもあります。しかし、見方を変えたり、発明者から情報を引き出したりすることにより、特許となる可能性を高めることができます。また、開発段階から、「特許の種」を撒くことで、特許性の高い発明を創出することもできます。 大切な発明の種を埋もれて風化させないよう、効率的に発明を発掘することが重要です。

  IPアドバイザリーは、知財コンサルティングサービスを提供しているほか、国内外の特許事務所やコンサルティング会社とのネットワークがあります。発明発掘についてのご相談はIPアドバイザリーにおまかせください。

株式会社IPアドバイザリー
石川県白山市で特許分析サービスを提供しています

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